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経験のない大雪災害 (あぜみち気象散歩42) | 2014-03-11 |
| ●気候問題研究所 副所長 清水輝和子 | 太平洋側で記録的大雪 2月は、2週連続で週末を記録的な大雪が襲い、大きな災害が発生した。特に、14~19日にかけて本州の南岸沿いを進み、北海道の東から千島近海で停滞した低気圧は、関東甲信・東北地方を中心に甚大な被害をもたらした。積雪は山梨県甲府市甲府で114cm、群馬県前橋市前橋で73cm、埼玉県熊谷市熊谷で62cmに達するなど、北日本と関東甲信地方の18地点で観測史上1位を更新した。この大雪と暴風雪により、死者は24名にのぼったほか、列車や車が立ち往生し、停電が相次ぎ、物流も乱れ、山間の集落では交通の途絶によって住民が孤立した。農業と畜産業の被害は深刻で、ハウスや施設の倒壊に加え、キュウリ、ネギ、イチゴ、ブドウなど農作物の被害も大きかった。   8日は普通の南岸低気圧 7~8日の低気圧は、本州の南沖を発達しながらゆっくりと進んだため、降雪時間が長引き、積雪量が多くなった。7日18時に、九州の南西の海上にあった低気圧は中心気圧が1004hpaだったが、8日18時には関東の南沖で990hpaに下がった(図1)。9日にかけて東北沿岸をゆっくりと進み、21時には980hpaまで下がった。 7日、気象庁は、「不要不急の外出はしないように。」と呼びかけた。8日には東京では13年ぶりに大雪警報が出され、東京で45年ぶりに積雪27cm、仙台では78年ぶりに35cmの積雪となった。  
図1 低気圧発達 990hpa 地上天気図、2014年2月08日18時  
図2 低気圧発達 996hpa 地上天気図、2014年2月15日09時   14日は上空の寒冷渦で大災害発生 14~19日にかけて本州の南岸を進んだ低気圧も、発達しながらゆっくりと東進して、のち北上した。関東沖での中心気圧は996hpaと1000hpaより下がったものの、8日の990hpaほどには発達しなかった(図1、2)。にもかかわらず、山梨県で1mを超える大雪になるなど、各地で甚大な被害が発生した。 その理由は、15日の低気圧は通常の南岸低気圧とは違って、「寒冷渦」と呼ばれる上空に寒気を伴った低気圧だった。15日09時の上空5000m付近の天気図(図3)を見ると、大陸から南下してきた気圧の谷から寒気の一部がちぎれ始めている。関東の上空にやってくるころには図4のように、丸く閉じた寒気の塊になった。  
図3 寒冷渦出来はじめる 上空5000m付近、2014年2月15日09時  
図4 寒冷渦の中心は関東西部から東北南部へ 上空5000m付近、2014年2月15日21時   「寒冷渦」は、中心付近や暖気とぶつかる進行方向の前面の地域で積乱雲が発達し、強い雨や雷雨、強風、突風など激しい現象がおこる。太平洋岸に雪を降らせる南岸低気圧の上空に寒冷渦が現れるのは極めて珍しい。寒冷渦の中心であるLのマークをたどると、近畿地方から長野、関東西部から北部、東北南部を通った。中心が通過した、長野、山梨、埼玉、群馬、栃木、福島、仙台では記録的積雪になった。 地上付近の天気図では、低気圧の中心は上空より南東側にずれるので、関東地方では東京湾から千葉県北西部を通り、茨城県南部を通過して茨城県沖に進んだ。アメダスの15日8時の風向を見ると(図5)、千葉県北西部に風が集まっている。この付近が地上の低気圧の中心で、風が反時計回りに吹き込み、5~10m/sとかなり強い風が吹き、千葉県銚子では20m/sの強風となっている。午前9時には千葉県旭市で竜巻が発生した。千葉県や茨城県では強風による農地の被害もあった。 午前8時の気温を見ると(図6)、栃木県から埼玉県、東京都、神奈川県より西では3℃以下と低いが、千葉県から茨城県にかけては10℃以上と気温の差が7℃以上もあった。千葉県から茨城県にかけては、南東から東よりの風が吹き込み、暖気が入った。寒冷渦の東側の暖気とぶつかりあって、積乱雲が発達し、大雨になった所もあった。茨城県つくばでは15日午前1時頃までは雪が降り12cmの積雪となったが、その後は雨になり06時には1時間に23.5mmの大雨が降り、この日の降水量は110mmに達した。茨城県や千葉県の農地では積雪後の大雨で雪が重くなり、農業用ハウスが倒壊し、大雪に雨が追い打ちをかけた。 このように、局地的大雨、大雪、強風、突風、気温差など、寒冷渦の特徴と思われる現象が各地にみられた。8日のような上空の気圧の谷の通過に伴って発生する南岸低気圧では、これほどまでの災害にはなりにくい。15日の南岸低気圧は特殊なケースだった。
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| 図5 千葉県北西部に風が集まる・・低気圧の中心通過 アメダス風向風速、2014年2月15日08時  
図6 茨城県~千葉県気温上昇 アメダス気温、2014年2月15日08時   大きなブロッキング高気圧で偏西風蛇行 今冬は太平洋側が大雪に、しかも1週間に2回も見舞われたのはどうしてだろうか。7~8日の上空の5日平均天気図を見ると(図7)、ベーリング海に中心を持つ大きな高気圧がある。中心は日本の南海上の高度とほぼ同じで、冬季の高緯度にこのように強い高気圧が現れたのは珍しい。この高気圧は、通常は東アジアから北米にかけてまっすぐ流れる偏西風をブロックした。行き場をさえぎられた寒気は日本に流れ込み、特大のブロッキング高気圧から持ち込まれた暖気とぶつかり、低気圧が発達した。偏西風が大きく蛇行すると流れが遅くなるので、上空の風に流される地上の低気圧の速度も遅くなり、降雪を長引かせた。  
図7 シベリア東部にブロッキング高気圧 上空5000m付近、2014年2月5-9日 500hpa北半球平均天気図高度と平年偏差(気象庁の図を元に作成) 青:平年より高度が低く、気温が低い 赤:平年より高度が高く、気温が高い   その後10~14日は図8のように、ブロッキング高気圧は弱まったが、日本の東で偏西風が北上して、気圧の尾根が非常に強まった。日本付近では偏西風が大きく蛇行を続け、暖気と寒気がぶつかり合う状態が続いた。 今冬は12月ごろから、北米西岸で気圧の尾根が発達し、アラスカでブロッキング高気圧ができて、高気圧が西進して日本に寒気を南下させ、12月からの寒波の一因となっている(あぜみち気象散歩41参照)。3月に入っても規模は小さいが日本の北にブロッキング高気圧ができやすい流れが続いているので、寒の戻りとなった。  
図8 日本の東海上で気圧の尾根発達 上空5000m付近、2014年2月10-14日 500hpa北半球平均天気図高度と平年偏差(気象庁の図を元に作成) ⇒偏西風の流れ   地球温暖化が進めば、太平洋側に雪は降らなくなるように思えるが、偏西風の蛇行が今冬のように大きくなり、日本に寒気が南下すれば、太平洋側の降雪はあることを今冬の大雪は示している。温暖化で地球大気の気温が上昇し、大気が含むことが出来る水蒸気量が増えている。しかも、日本近海の海水温は温暖化で上昇しているので、今までより水蒸気を多く含んだ空気が運ばれるため、太平洋側でも大雪になることがある。今冬の大雪は、温暖化が新たな災害がもたらすことを暗示している。経験のない気象災害がこれからも起こると覚悟しなければならないようだ。 経験のない気象現象を正確に予測することは、現代の科学技術でも難しい。ハウス倒壊被害のあった地域の中でも、天気予報を聞いて事前に骨組を針金で補強をし、ハウスを倒壊から守った農業者がいたという。今回の大雪で得た知識や教訓を全国で共有し、今後の災害に備えることが温暖化対策の1つになりそうだ。   (図はクリックすると大きく表示されます) |
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コラム:トカゲ――雨乞いか害虫退治か(むしたちの日曜日109) |
古代中国ではトカゲが、まるで龍のように扱われた。
「なるほど」と素直にうなずく人がいれば、「まさかあ」とまったく相手にしない人がいる。どんなことにも賛成・反対派がいるものだが、それにしてもあの神聖な龍とちっぽけなトカゲを同一視するなん... |
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