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北半球に師走寒波 (あぜみち気象散歩41)  2013-12-25

●気候問題研究所 副所長 清水輝和子  

 
砂漠の国エジプトに100年ぶりの雪
 中東各地は12月13日寒波に見舞われ、エジプトのカイロでは雪が降った。カイロ郊外の砂漠の中にある住宅地に、道路や公園が真っ白になるほど降ったのは100年ぶり、とも伝えられた。シリアやレバノンでも広範囲で最低気温が氷点下となり、エルサレムでは37cmの積雪が観測された。
 
欧州北部は冬の嵐
 欧州北部はハリケーン級の嵐に見舞われた。嵐は12月5日英国を通過し、風速45m/sの突風を伴って6日にかけてドイツからオランダ、ポーランド、スカンジナビア半島南部を襲った。大雨で洪水被害が発生し、数十万人が停電や交通網の大混乱に巻き込まれ、死者は10人にのぼったという。
 
欧州北部に初冬の嵐
図1 欧州北部に初冬の嵐
上空5000m付近、2013年12月2-6日 
500hpa北半球平均天気図高度と平年偏差(気象庁の図を元に作成)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
(クリックすると大きく表示されます)
 
寒気は欧州から中東へ
 欧州では、少雨の国もあった。スペインやフランスなどでは高気圧におおわれて、12月10日までの1か月間にほとんど雨の降らない地域があった。図1は北半球を上から見た上空の天気図で、嵐のあった5~6日頃は、優勢な高気圧がフランスからスペインをおおっている。そこへ、グリーンランドから南下してきた北極寒気が英国付近で暖気と衝突して、地上付近の低気圧が発達し、欧州北部は嵐に見舞われた。
 この嵐をもたらした北極寒気は、本来ならば偏西風に流されてシベリア方面に進むのだが、東へ進むことができなかった。というのも、図2のように、アラスカから太平洋の暖気が北上して、気圧の尾根が発達し、シベリア方面まで張り出したため、ロシア西部に進んだ寒気は行く手を阻まれた。東進することが出来ない寒気は、中東の方に向かった。
 そして、図3のように、13日頃にはアラビア海で亜熱帯高気圧が発達し、スペインにあった高気圧は欧州で強まったので、ロシア西部の寒気は西からも東からも押されたようになり、砂漠の国々に雪を降らせるほどの強い寒気が南下した。中東の上空5000m付近では、13日氷点下30℃の寒気が観測された。
 
アラスカから暖気が北上
図2 アラスカから暖気が北上
上空5000m付近、2013年12月7-11日 
500hpa北半球平均天気図高度と平年偏差(気象庁の図を元に作成)

:偏西風の流れ
 
中東上空に寒気(低気圧)南下
図3 中東上空に寒気(低気圧)南下
500hpa北半球平均天気図高度と平年偏差(気象庁の図を元に作成)
上空5000m付近、2013年12月12-16日
 
:偏西風の流れ
(クリックすると大きく表示されます)
 
偏西風の蛇行で米国・日本にも寒波
 「中東が寒くなると、日本は暖冬になる」とよく言われる。中東に寒気が南下すると通常は日本付近で偏西風が北に蛇行して日本は暖かくなる。ところが、今年12月は珍しく中東も日本も寒くなった。中東に雪が降った頃、日本にも強い寒気が南下して、日本海側は降雪が続いた。
 なぜ、中東も日本も寒くなったのだろうか。日本に寒気を南下させた原因は、ロシア西部の寒気の行く手を阻止したアラスカの気圧の尾根だ(図1、2)。12月に入って発達を始め、中旬にはシベリア東部に高気圧ができた(図3)。この高気圧が偏西風の流れをブロックして、寒気は日本の北を通過することができず、中国大陸南部から日本に入ってきて、師走寒波となった。
 日本や中東に師走の寒波をもたらすきっかけとなったアラスカの尾根は、同時に、北米でも偏西風を大きく蛇行させて、米国も強い寒波に見舞われた(図1、2)。西部や中西部を中心に気温が平年を大幅に下回り、テキサス州やアリゾナ州でも暴風雪に見舞われた。その一方で、暖気が入ったアラスカは気温が平年より高くなり、北極海沿岸のバローの最高気温は0℃近くまで上昇した。
 
寒波や大雪に注意
 北極の寒気と熱帯の暖気は、時々熱の交換を行って地球大気を混ぜ合わせるように運動をする。今年の初冬は北半球規模で偏西風の蛇行が大きくなって、北極と熱帯の空気の熱の交換が行われ、嵐や寒波、少雨、暖冬をもたらした。なかでもアラスカの気圧の尾根は顕著で、中東にまで影響を及ぼした。
 このアラスカからシベリアの高気圧帯は、近年冬によく現れ、長続きする傾向がある。今冬の日本付近は、この流れのパターンが現れやすくなりそうなので、日本に寒気が南下して、たびたび寒波をもたらす可能性がある。農作業や除雪など、寒さや大雪への対策が必要となりそうだ。

 
 
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