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ムカシトンボ―進化を捨てた大空の覇者 (むしたちの日曜日41) | 2013-05-10 |
| ●プチ生物研究家、ときどき児童文学者 谷本雄治 | 初夏になると気になる虫がいくつかある。たとえば2年前にたまたま見つけてハマってしまったキンケノミゾウムシの跳ねる“繭”であり、古い形態をいまに残すムカシトンボ、ムカシヤンマである。   キンケノミゾウムシは名前こそ長いが、まさにノミのように小さな体長2ミリ程度のゾウムシだ。その幼虫はハモグリバエのように、コナラやクヌギなどの葉の中にもぐって生活する。そして十分に腹ごしらえをしたあと、葉を丸くくりぬいてこしらえた円盤状のカプセルにおさまり、地上へと降りていくのだ。しばらくするとその中でさなぎになることから、ぼくはそれを繭のひとつととらえている。   ユニークなのは、繭のまま跳ねることだ。繭の中の幼虫は頭をいったん腹に引き寄せ、ヒトでいえば腹筋運動をしているような態勢をとる。そして次に勢いよく頭を繭の壁に当て、その反動で繭ごとひっくり返ったりジャンプしたりするようだ。繭はハンバーガーのような形をしているため、繭の内壁に頭がどう当たるかで跳ねる向きが変わるようにみえる。 もっともこれは、うっすらと透けて見えた繭の中の幼虫の動きに勝手な想像を加えただけのものだから、見当はずれである可能性は大である。 しかし、分からないから、なおさら不思議で興味深く、初夏の観察の楽しみになる。場所によっては、跳ねたばかりに水たまりに落ちる繭もあるわけで、そうなると気の毒でならない。   ムカシトンボはその名の通り、大昔のトンボと変わらぬ姿を持ち続ける頑固な飛行士だ。ご先祖さまは2億年ほど前の中生代ジュラ紀に現れたというから、人類など足元にも及ばない、この星の大先輩である。   現代のトンボは、イトトンボ類やカワトンボ類のように4枚のはねの形がほぼ同じものと、前2枚と後ろ2枚とで異なる赤トンボなど多数派のグループとに分かれる。前者は均翅亜目、後者は不均翅亜目と呼ばれるが、ムカシトンボはそのどちらにも属さないことで「生きた化石」のひとつとされている。 それだけなら「!」なのだが、いまも見られるのは日本とヒマラヤ周辺だけだといわれたら、何がなんでもみてみたい。そう思って何年か前、福島まで見に出かけた。そしてまさに「!!」の出会いとなったのだ。   初めて見るムカシトンボは、オニヤンマの意匠にそっくりだった。歴史からいえば、オニヤンマが黄色と黒のストライプ模様をパクったということになるのだろうか。 同じ縞模様なのに、発するオーラは、両者の間でずいぶん異なる。ムカシトンボの頭や胸は毛むくじゃらのように見えるが、それでいてどこかやさしい印象を与える。 何よりうれしかったのは、いきなり産卵シーンを見せてくれたことである。事前に調べていたフキではなく、ウワバミソウの茎にしっぽをつきたてるようにして卵を産み込んでいた。昆虫だから腹というのが正しいのだろうが、見た目には腰をぐいっと曲げている感じだ。そしてその産卵の痕がミシン目のように、点々と付いていた。   現代のトンボの多くとちがってムカシトンボのヤゴ(幼虫)は、7年も8年も冷たい川の中で過ごすらしい。それだけ長い年月を経たものだけが成虫になり、空を飛ぶことができる。ということは川の環境がその間、保たれているということになる。   そこで心配になるのが温暖化の影響だ。古生物の遺産をいまにつたえるムカシトンボの生息地の冷たい水の温度が、これ以上高くならないように祈りたい。 その気になれば、ムカシトンボのヤゴは意外なほど簡単に見つかる。腹がへこんだようになっているのは、ダイエットのせいではない。おそらく、岩や石に張り付きやすくするためだ。ペタッと張り付けば、流されにくい。 それも含めて、ムカシトンボのヤゴのかもしだす印象が好きである。岩の上にそっと置くと、まるで化石のように見えてくる。   同じく古い形態をいまに伝えるムカシヤンマのヤゴも、羽化するまでに長い年月をかけるという。ヤゴのすみかは谷や川筋の湿った崖であり、そこで穴ぐら生活をする。 ムカシトンボのいた川の近くで運よく見つけたムカシヤンマのヤゴも、聞いていた通り、穴に隠れていた。そっとのぞくと、鋭い目つきでにらみ返してきたように思えた。 もしかしたら、新参者のニンゲンにすみかを荒らされて怒っているのかもしれない。地球に現れた大先輩に敬意を払う気持ちを失ってはならないと肝に銘じた瞬間でもあった。(了)     写真 上から順番に ・羽化したてのムカシヤンマ。こちらも古いタイプの昆虫だ ・「跳ねるハンバーガー」として個人的に大注目のキンケノミゾウムシの繭 ・産卵中のムカシトンボ。毛むくじゃらなのに、憎めない感じがする ・見るからに古めかしいムカシトンボのヤゴ ・穴の中から外の様子をうかがうムカシヤンマのヤゴ
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コラム:トカゲ――雨乞いか害虫退治か(むしたちの日曜日109) |
古代中国ではトカゲが、まるで龍のように扱われた。
「なるほど」と素直にうなずく人がいれば、「まさかあ」とまったく相手にしない人がいる。どんなことにも賛成・反対派がいるものだが、それにしてもあの神聖な龍とちっぽけなトカゲを同一視するなん... |
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