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ノミゾウムシ―ぴょこんと跳ねる円盤繭 (むしたちの日曜日31) | 2012-06-14 |
| ●プチ生物研究家、ときどき児童文学者 谷本雄治 | ちょうど1年前の5月のことだ。ふとしたことから、田んぼ脇の小道で不思議な物体を見つけた。地面で跳ねる毛もじゃ円盤である。表面にもじゃもじゃと毛の生えた直径4mm程度の小さな円盤状のものが、ぴょこんぴょこんと飛び跳ねる。こんなものがあるなんて、実物を目にしながら信じられなかった。   しばらく見ていると、あるときは垂直に飛び上がり、念力で碁石をひっくり返したように、さっと裏返る。またあるときは、すっと垂直に立って静止し、そうかと思えばまったく予想外の方向にジャンプする。 ――なんだこれ?!   まじまじ見ると、表面に生える毛の向きがきれいにそろい、何かの植物のタネのようでもある。それがぴょんぴょこ運動をしているのだから、ますます不思議だ。 ――虫が中にいて、そいつが暴れているにちがいない! と推測するものの、自信がない。そこで虫に詳しい友人に尋ね、植物に明るい知人に聞いてみたが、いずれも知らないという答えが返ってきた。   と思っていたら、しばらくして、その繭を託した友人から興奮気味の連絡が入った。 「正体が判明しました。キンケノミゾウムシのものでした!」 そいつはゴマ粒ほどの小さなゾウムシで、珍種ではなく、ごく普通にいるものだと教えてもらった。先方で、はて何だろうと首をひねっているうちに繭の中で大変革が起こり、成虫となって外に飛び出してきたようである。   正体が分かったのはうれしい。だが、それ以上の展開はもう望めない。なぜ跳ぶのか、どうやって繭を跳ね上げることができるのか。それから2、3度同じ場所に出かけたが、出会いはなかった。 ――虫のものだと分かったし、その建造者もキンケノミゾウムシと判明した。まあ、よしとするか。 すっきりしないまま、謎の跳躍毛もじゃ物体事件はとりあえず終息した。   それから1年が過ぎた。やることはいっぱいあったが、なぞの円盤がどうにも気になってしかたがない。そこで昨年と同じ時期をねらい、今年も再び、現場を訪ねた。 すると、いたのである。昨年と同じ物体が昨年以上にたくさん見つかり、あちらでもこちらでも、ぴょんぴょこ飛び跳ねていた。まるで円盤のダンスパーティーでも開かれているように、にぎやかだった。   磁石の同極を近づけると反発してはねのけ合うが、それに似た動きだ。「手品だよ」と言って見せれば、子ども受けしそうである。 いくつか拾って表面を見ると、葉脈のようなものがある。毛も生えているが、よくよく見ると植物のタネというよりは小さなハンバーガーのようであり、側面にわずかな隙間が見えるものもあった。 ――ははあ、もしかして。 頭をよぎったのは、俗に「ツヅミミノムシ」とも呼ばれるマダラマルハヒロズコガという蛾の繭だった。正確には蓑というのか、リーフマイナーというのかよく知らないが、ここではとりあえず、〝繭〟とする。ヒロズコガの場合は蓑の縁から時折、幼虫が顔をのぞかせる。雰囲気的には見慣れたオオミノガの幼虫であるミノムシにそっくりである。   ぴょんぴょん跳ねる円盤繭にも、かすかな隙間があった。だが、そこからは何も出てこない。幼虫の頭もあしも見えなかった。しかたなく写真と動画を撮り、いくつか採集して持ち帰り、繭の中を開いてみた。 姿を見せたのは、まぎれもないゾウムシ型の幼虫だった。どんぐりの中に入り込むシギゾウムシの幼虫の体形に似ている。 昨年すでに、これがキンケノミゾウムシであることは分かっている。それでも確かに幼虫が入っているところを自分の目で見ることができた。それが飛び跳ねる仕組みは分からないままだが、円盤の主は確認した。まずはそれだけで十分にうれしい。   とはいうものの、あきらめが悪い性格である。やっぱりもう少し知りたいのが人情というものだ。 そこで、またまた現場に足を運び、葉っぱをくりぬいてつくった円盤であるからには、その素になる葉っぱがどこかにあるはずだと狙いを定めて、葉っぱめくりをしまくった。 すると、あったのだ。おそらくは葉に侵入してしばらくは「絵描き虫」のハモグリバエなどと同じように絵を描き、その後おもむろに葉を丸く切り抜いて、地面にぽとりと落ちる。その旅先で、何度か見たようなぴょんぴょん運動を展開するのである。 友人の確認したものも含めると、千葉、静岡、福島の3県には確かに存在した。樹種はコナラとクヌギだ。   虫の観察のため、暇があれば木の幹を見るのが習慣になっている。だが新たに、葉っぱめくりが加わった。今シーズンのキンケノミゾウムシの繭が跳ねる時期は終わったようだが、謎解きは一度に終わらせるよりも、適度に課題を残しつつ継続する方が楽しい。 ――よしよし、来年も楽しめるぞ。 研究が完結しなくても、誰も何も言わない、言われない。だから、プチ生物研究家はやめられないのである。(了)     写真 上から順番に ・立ち上がった繭。こんなのは朝飯前。宙返りも横っ跳びも簡単にこなす運動能力には脱帽だ ・キンケノミゾウムシの成虫は、意外に愛きょうがある。この〝瞳〟で見つめられると、もうイケない。跳ねようが跳ねまいが、どうでもよくなる ・マダラマルハヒロズコガの蓑から少しだけ頭を出した幼虫。ミノムシのように白と黒のストライプ模様だ ・キンケノミゾウムシの幼虫が開けた穴。葉っぱの中を進み、最後には丸く切り抜いて、地面に落下する ・繭が勢ぞろい。動画でないのが残念だ。写真撮影の間にも、ぴょこぴょこ跳ねる
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コラム:トカゲ――雨乞いか害虫退治か(むしたちの日曜日109) |
古代中国ではトカゲが、まるで龍のように扱われた。
「なるほど」と素直にうなずく人がいれば、「まさかあ」とまったく相手にしない人がいる。どんなことにも賛成・反対派がいるものだが、それにしてもあの神聖な龍とちっぽけなトカゲを同一視するなん... |
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