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温暖化によりコメ収量は増加、品質は大幅悪化〜FACE実験 (松永和紀の「目」17)  2011-07-06

●科学ライター 松永和紀  

 
 独立行政法人農業環境技術研究所が、昨年の猛暑下で二酸化炭素(CO2)を高濃度にした時にコメがどうなるかを調べ、6月22日に発表しました。結果は、収量は増加したものの、白未熟米が著しく増加し整粒率が大きく下がり、品質が非常に悪くなってしまいました。
 将来を見据えた品種の変更や栽培方法の改善などを急がなければなりません。
 
 今回の研究が興味深いのは、人工気象室などでの実験と異なり、自然条件に非常に近い形で高温、高CO2濃度におけるイネの挙動についてのシミュレーションができた点です。
 同研究所は昨年、茨城県つくばみらい市の水田に、「FACE (Free Air CO2 Enrichment;開放系大気CO2増加) 実験施設」を作りました。水田に、差し渡し17mの正八角形状にチューブを設置し、CO2を放出します。CO2は、大気に含まれる窒素ガス(N2)や酸素ガス(O2)よりも少し重いので、水田にCO2が滞留し一定のCO2濃度を保つことができます。
 
 植物は、温室など閉鎖系と、田や畑などの開放系で生育の状況が大きく異なることが多く、それが研究者にとっては悩みのタネです。このFACE実験施設であれば、開放系で太陽光を受け、風なども吹く自然の環境を保ちつつ、チューブで囲まれた部分だけCO2濃度を高くすることが可能になります。
 農環研はFACE実験施設を以前、岩手県雫石町に設置していました。イネを対象とした世界初の施設です。1998年から2008年まで多くの実験を行い、興味深い結果を出してきました。
 
 ただし、岩手県は冷涼な気候です。そのため、比較的暑いつくばみらい市に移り、面積も雫石FACEの2倍の施設を作り、「さあ、今年からさまざまな実験をがんばろう」と張り切っていた矢先、記録的な猛暑に見舞われました。日平均気温が平年より1.8℃高く推移し、結果的に50年後の高温、高CO2濃度を早くも実現できたのです。
 
 実験では、図のように多くの品種を栽培し、窒素肥料の量を変えた試験区や水温を変えた試験区も設定して、生育状況やできたコメの品質等を調べました。
 
図1
図1
出典:農業環境技術研究所資料

 
 その結果、コシヒカリは高CO2にすることで収量が16%も増加することが分かりました。植物の光合成が盛んになり、炭水化物を体内で多く作る「CO2施肥効果」が確認されたのです。
 しかし、よいことばかりではありません。白未熟米、特に基部が未熟で白い濁りが見られる現象が多発し、整粒率が17ポイントも低下してしまいました。
 窒素肥料の量が違うと玄米のタンパク質含有率が異なり、タンパク質含有率が少なければより、整粒率が下がってしまう傾向が見られました。同じ施肥条件で、高CO2濃度処理区と無処理区を比較すると、高CO2区で整粒率が下がることが明白でした。
 これは、高CO2により光合成が盛んになり炭水化物をたくさん作れたとしても、窒素が足りなければイネは十分なタンパク質を作れず、品質の高いコメはできにくい、という当然の結果でしょう。
 
 また、窒素をたくさん与えて玄米中のタンパク質含有率を同じにしたとしても、高CO2区の方が、整粒率が低くなる傾向が見られました。つまり、問題は、窒素肥料から植物が作るタンパク質の含有率が多いか少ないか、という点だけではない、ということ。ほかの要因もからんでいるのです。
 
図2
図2
出典:農業環境技術研究所プレスリリース
 
赤;高CO2区、青;対照区。
△;多窒素施肥区、○;標準窒素施肥区、□;窒素無施肥区、◇;水温上昇区。
玄米タンパク質含有率が下がるにつれて、整粒率が低下していることがわかる。また、窒素肥料を十分に与えてタンパク質含有率を保っても、高CO2区では整粒率が低くなる傾向が明白であり、肥料を多くやるだけでは問題が解決しないこともわかる

 
 農環研は、イネの葉の気孔の変化に注目しています。CO2濃度が高いと、植物は気孔の開き方を小さくし、水分の蒸発を防ごうとする傾向があります。しかし、水分の蒸発は熱を奪い温度を下げてくれる冷却効果も生み出します。
 気孔が閉じ気味になると冷却効果が失われ、イネの群落の温度が上がり、イネにとっては負担が大きくなります。そうしたことも、整粒率の低下につながっているのではないか、というのです。
 
 移転して実験を再開した初年度、早くも興味深い結果が出てきました。今、九州を中心に多くの地域が高温障害に苦しんでいますが、温暖化が進むとさらに苦境に陥りそうです。窒素肥料を増やせば整粒率は上がります。でも、増やし過ぎるとコシヒカリは倒伏しやすくなり、食味も落ちてしまうでしょう。地球温暖化が進む中で、生産現場はそんなジレンマを乗り越え問題を解決していかなければならないのです。
 
 雫石での11年の成果を基に、気候や土壌条件などが異なるつくばみらいで多くの品種を用いさまざまな実験を行うことで、比較が可能になり新たな研究成果が産まれます。今回は、コシヒカリについての実験結果がまとめられ発表されましたが、品種による差など多くの実験がこれから解析され、発表されるはずです。
 農環研は、これまでの研究成果についても、公表しています。今回のプレスリリースと同時に雫石の結果などほかの資料も読むことで、理解を深めることができます。ぜひ、ほかの資料も読んでください。どのような性質を持つ新しい品種を開発して行くべきなのか、生産現場での施肥や水管理等、どのような対策が必要なのか? 研究の進捗状況を見守りつつ、具体策を考えて行きましょう。
 
 
参考文献
農業環境技術研究所プレスリリース
「50年後に想定される高いCO2濃度条件下では、コメの高温障害はさらに進行
―2010年の猛暑下における FACE 実験結果から予測」
 
農業環境技術研究所研究成果発表会 2010
50年後の生育環境でイネを栽培「高CO2濃度の影響評価」
発表図表

 
 
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