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トレードオフに気をつけて! (松永和紀の「目」1) | 2009-12-28 |
| ●科学ライター 松永和紀 | 一つの問題だけに注目して解決を目指し「良いことをした」という気分になっていると、知らないうちにそのせいで別の問題が発生している。そんなことが世間にはよくあります。こうした現象を「トレードオフ」と呼びます。「あちらを立てればこちらが立たず。世の中そううまい具合にことは運ばないよ」というわけです。   実は、農業においてもトレードオフがひんぱんに発生しています。ところが、往々にして気づかれないままになっています。具体例を説明しましょう。茨城大学農学部の小林久教授らは、次の四つの水稲栽培農家について、二酸化炭素(CO2)排出量を調査しました。 (1)農薬、化学肥料を使う慣行栽培 (2)低農薬無化学肥料栽培 (3)無農薬、無化学肥料で耕す回数を減らした簡易耕起栽培(有機JAS認定無し) (4)紙マルチによって雑草を防除し虫を防ぐ有機栽培(有機JAS認定有り)   CO2は温室効果ガスなので、地球温暖化対策により排出削減を強く求められています。そこで、それぞれの農家について、育苗や代掻き等の準備、移植から栽培、収穫、乾燥までの工程で、どれくらいCO2を排出したか、調べたのです。   CO2排出と言われてもピンとこないと思いますが、農薬や肥料など資材の製造にはエネルギーが使われCO2を排出します。また、それらを車などで運んで来るときも、作業で機械を動かす時も、燃料を要しCO2を排出します。小林教授らは、各段階を細かく調べ、排出量を算出していったのです。すると、興味深い結果が分かりました。   (4)紙マルチ除草のCO2排出量が驚くほど多いのです。農薬も化学肥料も使わず環境に良いとされる有機栽培、しかも有機JAS認定を受けている栽培が、温室効果ガスを大量に排出しているとは、意外な結果です。   栽培タイプ別のCO2排出量と作業時間
紙マルチ栽培は、CO2排出量、作業時間ともに、多くなっている 出典:「シリーズ21世紀の農学 地球温暖化問題への農学の挑戦」(日本農学会編、養賢堂)   なぜでしょうか? 小林教授らの分析では、紙マルチに使ったマルチ材が問題でした。紙の製造段階で大量にエネルギーが使われCO2が出ていたのです。除草剤不使用は、特定の化学物質を自然界中に放出し生き物に影響を及ぼすことがない、という意味ではよいことです。しかし、トータルのCO2排出量という指標で検討すると、ほかの農法よりも格段に環境影響が大きくなってしまう。これは、典型的な「あちらを立てれば、こちらが立たず」の話であるように、私には思えます。   小林教授は、この研究結果を「シリーズ21世紀の農学 地球温暖化問題への農学の挑戦」(日本農学会編、養賢堂)で紹介しています。小林教授は、『「農業」と「環境」を考える場合には、個々の取り組みの環境負荷低減が別の取組みに影響しないか、というように、相互の関連を考慮して「全体」の環境負荷を包括的に捉え、改善するようなアプローチも必要になる』と書いています。   実際の農業においては、作業時間の長さや収穫物の価格なども検討しなければなりません。農業を持続可能な産業にするには、考えなければならないことがいっぱい。難しい。でも、やりがいがある素晴らしい仕事。それが農業でしょう。これからしばらく、さまざまな角度から食料や農業の問題をとりあげ、研究成果などを紹介します。どうぞよろしくお願いいたします。 |
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コラム:きのこ虫――近くて遠いふるさと(むしたちの日曜日107) |
その切り株は、街なかの小さな児童公園の隅っこにあった。
樹種は、はっきりしない。それでもそこに生えるきのこがサルノコシカケであることは、独特の形状から判断できた。
きのこ類の識別は、なかなかに難しい。
春に見るアミガサタケなら... |
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