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猛烈に暑かった今年の夏 (あぜみち気象散歩10)  2010-09-29

●気候問題研究所 副所長 清水輝和子  

 
記録ずくめの暑さ 
 この夏は、異常なほどの猛暑だった。夏(6~8月)の日本の平均気温は1898年の統計開始以降最も高かった。35℃を超える猛暑日は9月に入っても現れ、東京の大手町では年間日数が13日と、1995年に並ぶタイ記録となった。30℃以上の真夏日は71日に達し、観測史上最多を記録。農作物は記録的な高温と少雨で葉物野菜はしおれ、果物は日焼け、秋冬野菜の定植が遅れるなど、被害は深刻化した。
 
異常猛暑の原因
 今夏はなぜこれほどまでに暑くなったのだろうか。原因は1つではなく、複数上げられる。まず、昨年夏に発生し今春まで続いたエルニーニョの影響がある。エルニーニョ現象が発生すると、太平洋の赤道付近の東部から中部にかけての海面水温が平年より高くなる(図1)。海洋と大気とは熱のやりとりをするので、発生後数カ月から半年ほど遅れて地球全体の気温が上昇する。今夏の地球の気温は上空まで高く、とくに北半球の中緯度で高温が続いた。
 
エルニーニョ最盛期-海面水温平年偏差
図1 エルニーニョ最盛期 海面水温平年偏差(2009年12月)気象庁
 
 夏季、ヒマラヤ上空に現れるチベット高気圧も強かった(図2)。チベット高気圧は、インドやアジアのモンスーンが活発になると、ヒマラヤの上空の高度16000m付近で発達する。今夏はモンスーンが例年より活発だったので、チベット高気圧は強まり、日本上空まで張り出した。エルニーニョ後の北半球の高温が勢力をさらに強め、高気圧の北側に沿って流れる亜熱帯ジェット気流は、高気圧に押されて例年より北上した。ジェット気流は寒気と暖気の境を流れる強風帯で、その北側にある寒気は日本に南下できず、暑さの中休みもなかった。
 
2010年猛暑の原因
図2 2010年猛暑の原因(気象庁資料より作成)
 
 また、エルニーニョからラニーニャへ急激に変化したことも原因の1つだ。太平洋赤道付近の東部から中部の海面水温は、5月下旬から急に下がり、夏にはラニーニャ現象が発生した(図2)。ラニーニャになるとフィリピン沖の海水温が高くなるので、その海域で対流活動が活発になる。すると、上昇した気流が日本の南で下降気流となり、太平洋高気圧が強まる。
 
 今夏は太平洋高気圧が非常に強かった(図3)。上空5000m付近の太平洋高気圧を示す線は、例年なら5880mの線で表され、夏季は日本付近に張り出す。ところが今年は、もっと強い5940mの線が出現し、西日本や東日本、東北地方まで覆った。真夏でもめったに現れない強い高気圧が、7月17日~21日、8月4~7日、17日~22日、26~28日、8月31日~9月4日と何度も出現した。酷暑は波のように押し寄せ、35℃を超える猛暑日が全国で100か所を超える日が、たびたびあった。とくに8月下旬後半は、熱帯低気圧が台湾の東海上で次々と発生し、九州の西を北上。このコースを台風や熱帯低気圧が通ると、上昇した気流が日本付近で下降して太平洋高気圧を強めるので、9月に入っても猛烈な残暑となった。
 
強い太平洋高気圧-上空5000m付近の天気図
図3 強い太平洋高気圧 上空5000m付近の天気図 
   2010年8月4~8日(半旬平均500hpa高度および平年偏差)
   気象庁資料より作成

 
 このように、今夏は地上から上空5000m付近の太平洋高気圧、さらに16000m上空のチベット高気圧の高度まで、強く背の高い高気圧におおわれたことが、猛暑の直接的な原因となった。また、これだけではなく、日本の夏の暑さを支配する様々な要因が重なり合い、増幅し、異常な猛暑となった。 
 それに加え、地球温暖化の影響も無視できない。地球全体の気温が温暖化によってレベルアップしていることも考慮しなければならない。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)によると、21世紀末には地球の気温は最大で4℃上昇すると予測されている。将来は今夏のような猛暑が平年並になり、もっときびしいスーパー酷暑が現われ、最強の太平洋高気圧が日本を覆うかもしれない。このままでは数十年後、過去を振り返ってみたら、2010年は本格的な温暖化時代の幕開けの年だった、ということになるのかもしれない。

 
 
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