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ナナフシ―おとぼけキャラのステッキ虫 (むしたちの日曜日4) | 2010-03-10 |
| ●プチ生物研究家、ときどき児童文学者 谷本雄治 | 気がつかないだけで、身近なところにもおかしな生き物はすんでいる。それがあこがれの虫だったりすると、見つけたときの喜びもまたひとしおである。   わたしにとっては、木の枝に〝化ける〟ナナフシが、まさにそれだった。擬態の例として子ども向けの本でもよく紹介されているのに、自分で見たことがなかった。本を読み、雑木林で探してはみるものの、いつも徒労に終わっていた。 ところがある年の春、家のすぐ前にある雑木林の下草を刈っていて、ノイバラの葉の上でちらちらと動くものの気配を感じた。チュウレンジバチという蜂の幼虫はよく見かける。そのときもそれだと思いながら顔を近づけると……なんと、あこがれのナナフシではないか!   見たいと思ってから実に30年。まったく予期せぬ電撃的な対面であった。 ふ化して間もないのか、糸くずみたいで頼りない。そのくせ、細いあしを一人前に踏ん張り、葉の上でちっちゃなからだを揺らしている。「キジも鳴かずば撃たれまい」とはいうが、この幼虫もそんなふうに威張らなければ見つからなかったはずである。 だがしかし……むふふ。その日から彼女が、わが家の一員になったことはいうまでもない。   擬態を見破るこつをつかめば、第2、第3の発見は難しくない。ノイバラ、コナラ、クヌギと、実に数多くの樹木を生活の場にしていることがわかった。それまで見つけられなかったのが不思議なくらい、どこにでもいる。   飼いだして、しばらくすると、最初の脱皮をした。薄いオブラートのような抜け殻は、細身のからだそのまんまの形だ。 そのナナフシは数日おきに皮を脱いで大きくなったが、木の枝が長く太くなるだけで、チョウのように劇的な変化は見られない。しかし、長ずるに及んで、つぶらな、とぼけたような眼がはっきり見えるようになり、ますます愛情がわいてきた。 動物園で初めてナマケモノを見たときと同じ感覚だ。おりの金網にぶら下がり、うわさと違って、あまりにも活発に動くのでびっくりした。見かけこそけったいな動物だが、いったい、このどこが怠け者だというのか。   虫の世界のナマケモノにもたとえられるナナフシも同様で、飼ってじっくり観察していると意外な側面を見せてくれる。 多いのは、前あし2本を触角のように見せ、「あーら、あたくし、4本あしの虫ですのよー」といったポーズをとることだ。子どもはもちろん、うっかりすると大人でも簡単にだまされてしまう得意わざだ。 自らの身を守るためなのか、あしをポロリと落としても、心配はない。脱皮のたびに、少しずつ再生してくる。 初めは「ピーターパン」に登場する海賊・フック船長のかぎ爪みたいにくるんと巻いているが、何度目かの脱皮のあとにはすっかり元通りだ。とぼけた顔をして、なかなかやるものである。   さらに驚くのは、その先だ。成虫になれば産卵を始めるが、この卵がまた面白いのである。 古代ギリシャの壷にあったような文様を持つものや、つるつるピカピカの宇宙船みたいなものなど、種によって実にさまざま、個性的な造形を見せつける。こんな卵、よほどおかしなものを食べなければ産めないと思うのだが、餌にする植物は、なんてこともない普通種なのだ。   しかし、どう見てもタネである。しかも、脱糞と一緒で、樹上からパラパラと落っことす。糞とどうやって区別しているのか、一度たずねてみたい気分になる。 第一、オスなしで産んだのだから、無精卵だろう。どうせ、ふ化しっこない、とあきらめていたら、次の年の春にはちゃんと幼虫が出てきた。タネみたいなのに、タネのない手品みたいなオドロキをもたらしてくれるのが、ナナフシの卵なのである。   ナナフシの仲間は国内に、20種近く生息する。もともとは南方系の虫で、北に向かうほどメスが多くなるらしい。温暖化が進めばナナフシ前線はさらに北上し、この珍妙な〝タネモドキ〟の卵を産んでくれると思うと愉快になる。   わが家の周辺にいるのは、最もポピュラーなナナフシモドキという種なのだが、この命名はいただけない。「ナナフシ」というナナフシは存在せず、このナナフシモドキが俗にいう「ナナフシ」なのに、なぜこうなったのか。これは7節、つまりたくさん節がある枝に似ているから――というのが発想の原点らしいが、いまとなっては、紛らわしいことこの上ない。   ところで21世紀早々、アフリカにすむカカトアルキという新昆虫が学会に報告された。われらがナナフシは、その虫によく似ている。ファンにとっては、それも自慢のタネなのである。(了)     写真 上から順番に ・木の枝そっくりのエダナナフシ成虫 ・ふ化したばかりのナナフシモドキ幼虫 ・4本あしにも見える得意のポーズ ・エダナナフシの卵 ・とぼけた顔がなんともいえない魅力だ
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コラム:きのこ虫――近くて遠いふるさと(むしたちの日曜日107) |
その切り株は、街なかの小さな児童公園の隅っこにあった。
樹種は、はっきりしない。それでもそこに生えるきのこがサルノコシカケであることは、独特の形状から判断できた。
きのこ類の識別は、なかなかに難しい。
春に見るアミガサタケなら... |
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