ラニーニャ現象発生で師走寒波(あぜみち気象散歩65) | 2017-12-22 |
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●気候問題研究所 副所長 清水輝和子 |
早い寒波 | 今冬は11月半ばから急に寒くなり、寒波の到来が早かった。札幌では18日から早くも本格的な雪になり、19日には積雪29cmを観測した。最高気温が0℃未満の真冬日は札幌で11月に5日を数え、1912年以来105年ぶりの寒さになった。12月に入っても断続的に寒気が南下し、師走寒波となっている(図1)。東京都心では18日に気温が-0.2℃まで下がり、今冬初の氷点下となった。12月に氷点下の冷え込みになったのは、今世紀に入ってからは2014年に2日、2005年に2日しかない。日本海側では雪の日が多く、11月1日からの12月21日までの累積降雪量は平年の1.5~2倍、多い所で3倍にもなっている(図2)。  
図1 地域平均気温平年偏差時系列 (2017年10~12月21日)気象庁  
11月から平年の2~3倍の雪が降っているところも 図2 累積降雪量(2017年11月1日~12月21日) 気象庁  
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ラニーニャ現象発生 | 気象庁は12月11日「ラニーニャ現象が発生しているとみられる」と発表した。 ラニーニャ現象が発生すると寒い冬になる傾向がある。気象庁の統計データによると、ラニーニャ現象が発生している年の11~1月は、東日本で低温になることが知られている(図3)。  
図3 ラニーニャ現象が発生しているときの平均気温(11~1月) 気象庁   ラニーニャは海面水温が太平洋赤道付近の東部から中部で平年より低く、西部のフィリピン付近で高くなる現象だ。図4のように、監視海域の海面水温はこの秋から平年より低くなり、次第に下がっている。今冬にかけてはラニーニャ現象が続き、さらに春まで続く可能性が60%の確率で予測されている(図5)。  
図4 海面水温平年差(2017年12月上旬) 気象庁  
図5 海面水温の経過とラニーニャ現象の予測 (2017年12月11日発表)気象庁   ラニーニャ現象が発生するとフィリピン付近では海面水温が高くなるので、対流活動が活発になる。冬季は上昇した気流が中国南部に下降し、高気圧を強めるため大陸を流れる偏西風を蛇行させて、日本付近に寒気が入り寒くなる傾向がある(図6)。  
図6 ラニーニャ現象の海面水温と冬の上空5000m付近の気圧偏差 及び偏西風の流れの模式図  
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11月の寒波 | 図6は、ラニーニャ現象が発生した冬の上空の風の流れや気圧偏差を平均したもので、今年と似ている点が多い。とはいっても、ラニーニャ現象が発生すると必ずこのような天気図型や偏西風の流れになるわけではなく、大気自身が持つ変動や積雪・海氷など、様々な影響をうけて変化する。 今年11月半ば以降の寒波の原因は、第一に北極付近に高気圧が現れたことがあげられる。図7と図8は北半球を上から見た上空5000m付近の天気図で、通常は中央の北極付近では寒気が蓄積されて“極ウズ”と呼ばれる低気圧ができる。ところが、今年11~12月の北極寒気は放出期になり、高気圧が居座ったので、寒気は中緯度へ南下しやすかった。  
北極海に高気圧、アリューシャンで気圧の尾根発達 図7 500hpa北半球平均天気図 高度と平年偏差(気象庁の図を基に作成) 2017年11月16~25日(平年値は1981年~2010年の平均値) 青:平年より高度が低く、気温が低い 赤:平年より高度が高く、気温が高い  
北半球の中緯度で偏西風が大きく蛇行 図8 500hpa北半球平均天気図 高度と平年偏差(気象庁の図を基に作成) 2017年12月4~13日(平年値は1981年~2010年の平均値) 青:平年より高度が低く、気温が低い 赤:平年より高度が高く、気温が高い   偏西風の流れにも寒波の特徴が現れた。図7を見ると、11月は半ば以降グリーンランド付近で、偏西風が北に蛇行して暖気が北上し、気圧の尾根になった。その東側の北欧から英国には寒気が南下し気圧の谷、その東のロシア西部は気圧の尾根と偏西風の波が伝播して、極東の大陸東岸から日本では気圧の谷になって強い寒気が南下した。このユーラシア大陸を伝わる風の波は「EUパターン」と呼ばれ、ヨーロッパが寒くなると日本が寒くなる典型的なタイプだ。 その上、日本の東のアリューシャン付近では気圧の尾根が発達したため、寒気は東へ流れず南に向かい、西日本も寒波に見舞われた。ラニーニャ現象の冬は北太平洋東部で太平洋高気圧が強まるが(図6)、今冬は高気圧が西よりで強まる傾向がある。今年は夏からこのように日本の東海上で高気圧が強まる傾向がある。今冬も続く可能性があり、西日本から沖縄・奄美に寒気が入りやすいと思われる。  
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師走の寒波 | 12月に入ると偏西風の蛇行はさらに大きくなった(図8)。グリーンランドの尾根は強まり、“EUパターン”が持続して東アジアから日本への寒気の南下も続いた。とくに、偏西風が大きく波をうった米国では、西海岸のカリフォルニア州で大規模な山火事が発生した。地上付近の風がネバダ山脈を越えてフェーン現象が発生し、乾燥した風が山から吹き下りて、森林の消失面積は約11万ha、建物の被害は1000棟と、同州史上3番目の規模に及んでいるという。また、欧州では南下した寒気によって、12月8日に英国で大雪が降った。世界規模で異常気象が広がっている。 14日には台風26号がフィリピンの東海上で発生、16日にフィリピン東部に上陸し、洪水や土砂崩れなどで3人が犠牲となった。ラニーニャ現象の影響で、フィリピン周辺では対流活動が活発になっている。フィリピンからインドネシア周辺で上昇した気流が偏西風を蛇行させる働きをして、寒気が日本に南下しやすくなっている。海面水温の分布とは別に、上空の偏西風の流れも寒波になりやすい傾向が見られる。ここ数年はエルニーニョ現象などの影響で暖冬傾向が続いていたが、今冬は寒さや大雪の対策が必要だ。 また、太平洋沖を流れる黒潮が大きく蛇行して、12年ぶりに“黒潮の大蛇行”が発生している。黒潮が大蛇行すると関東の南沖を通る低気圧の数が多くなり、寒気が入りやすいコースを通り降雪回数が増えるという研究結果がある。ラニーニャ現象の冬の太平洋側は晴天が多い傾向だが、今冬の関東地方は雪の日が多い可能性がある。  
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