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コシヒカリの乳白粒発生軽減のための作期と適正籾数 | 2014-02-18 |
| ●島根県農業技術センター 月森 弘 | 背景と概要(要約) | 近年は水稲の栽培期間、特に登熟期が高温化しており、白未熟粒の多発生により外観品質の低下が著しくなっている。島根県の主要品種「コシヒカリ」では1998年頃から白未熟粒の中でも乳白粒の発生が多くなり、平坦部を中心に品質が低下している。 そこで、乳白粒発生軽減のための作期と作期ごとの適正籾数を検討した。その結果、早植えより遅植えで乳白粒の発生率が低いこと、また遅植えでは適正籾数が早植えより増加することを明らかにした。 |
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| 症状 | 乳白粒は胚乳デンプンの集積が不十分なため、透明化せず米粒の中心部が白く濁る(図1)。  
図1 乳白粒 |
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| 原因 | 乳白粒発生の原因としては、登熟期の高温、日照不足、籾数過多や早期落水などの報告がある。登熟期の高温は穎果内の各種酵素の活性の変化や同化産物の転流阻害を通じて同化産物の集積過程に関与していると考えられている。 |
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| 対策 | コシヒカリの遅植え(5月下旬植え)は、早植え(5月上旬植え)に比べ乳白粒の発生が少なくなった。出穂後20日間の気温と乳白粒の発生率には相関関係があり(図2)、移植時期を遅らせることにより、出穂後の気温が低下する時期に出穂させることができたことが要因の1つと考えられた。  
  乳白粒発生率の上限を6%とすると、図2の近似曲線の回帰式から出穂後20日間の最高気温の平均は30.3℃、平均気温は25.9℃、最低気温の平均は22.5℃となる。島根県ではおおむね8月第2半旬以降に出穂するとこの条件に合致し、移植時期は5月下旬以降となる。また、移植時期を遅くするとシンク(籾数)とソース(ここではわら重で解析)のバランスが向上し、籾当たりの同化産物供給能力が高まることが示唆された(図3)。  
  単位面積当たりの籾数と乳白粒の発生率には正の相関関係があるが、乳白粒率6%となる籾数は、早植えではおおむね25,000粒であったが、遅植えでは30,000粒と多かった(図4)。  
  遅植えでは早植えに比べ稈長が長くなりやすく、倒伏程度を2.5以内とするためには稈長を89cm以下とする必要があった(データ省略)。遅植えにおける稈長と単位面積当たり籾数は正の相関関係があり、稈長89cmとするための限界籾数は回帰式から27,600粒であった(図5)。  
  以上を要約すると、5月下旬植えにすると、気温が低下した時期に水稲を登熟させることができ、乳白粒の発生率を6%以下に軽減することが可能と考えられた。この時の単位面積当たり籾数はおおむね28,000粒だった。 なお、早植えする場合は、登熟気温が高くなり、適正籾数は25,000粒とやや少なくなった。いずれにしても、良質米の生産のためには、籾数の上限を越えないように穂肥の窒素施用量を決定する必要がある。   (図表はクリックで拡大します) |
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| 参考資料 | 1)稲葉健五・佐藤庚1976.水稲の高温稔実障害に関する研究.第6報登熟期の高温が穎果の酵素活性に及ぼす影響.日作紀45:162-167. 2)岩澤紀生・松田智明・荻原義邦・新田洋司2003.水稲登熟期の高温ストレスに伴う粒厚減少の構造的要因.Ⅱ.高温ストレスによる胚乳組織形成の異常.日作紀(別1)72:92-93. 3)小葉田亨・植向直哉・稲村達也・加賀田恒2004.子実への同化産物供給不足による高温下の乳白粒発生.日作紀73:315-322. 4)今野周・今田孝弘・中山芳明・宮野斉・三浦浩・高取寛・早坂剛1991.登熟期の環境要因及び生育条件が水稲登熟,収量及び品質に及ぼす影響.山形農試研報25:7-22. 5)森田敏2000.高温が水稲の登熟に及ぼす影響-人工気象室における温度処理実験による解析-.日作紀69:391-399. 6)長戸一雄1952.心白・乳白米及び腹白の発生に関する研究.日作紀21:26-27. 7)長戸一雄・江幡守衛1960.登熟期の気温が水稲の稔実に及ぼす影響.日作紀28:275-278. 8)長戸一雄・江幡守衛1965.登熟期の高温が穎果の発育ならびに米質に及ぼす影響.日作紀34:59-66. 9)翁仁憲・武田友四郎・縣和一・箱山晋 1982.水稲の子実生産に関する物質生産的研究.第1報 出穂期前に貯蔵された炭水化物および出穂後の乾物生産が子実生産に及ぼす影響.日作紀51:500-509. 10)折谷隆志1990.老化のメカニズム.松尾孝嶺監修,稲学大成.生理編 農山漁村文化協会,東京.109-120. 11)佐々木康之・今井良衛・細川平太郎1983.高温下で登熟する玄米品質の劣化防止技術.新潟農試研報33:45-54. 12)島根県農業試験場2002.高温登熟条件下における乳白粒を抑制する「コシヒカリ」の適正籾数.平成13年度近畿中国四国農業研究成果情報.近畿中国四国農業試験研究推進会議・近畿中国四国農業研究センター.89-90. 13)寺島一男2001. 東北地域における夏季の異常高温が水稲生育および米品質に及ぼす影響の解析と今後の対策.農林水産省東北農業試験場.67-78. 14)寺島一男・齋藤祐幸・酒井長雄・渡部富男・尾形武文・秋田重誠2001.1999年の夏期高温が水稲の登熟と米品質に及ぼした影響.日作紀70:449-458. 15)月森弘・丸山幸夫2000.水稲品種コシヒカリの乳白粒発生に及ぼす気象条件の影響-幼穂発育期の日照条件による乳白粒発生率の変動-.日作紀(別2)69:10-11. 16)月森弘2003.島根県における高温のイネ生産への影響と技術的対策.日作紀別(2)72:434-439. 17)月森弘2005. 温暖化する気象条件下での早期栽培イネにおける品質・収量低下に対する技術的対応.日作紀74:80-82. 18)月森弘2008.気象および移植時期が水稲‘コシヒカリ’の乳白粒発生に及ぼす影響.島根農技研報38:47-56 19)横山克至・高取寛・藤井弘志・渡部幸一郎・安藤正・小南力・松田裕之・柴田康志・長谷川愿2002.庄内地域における登熟期の高温条件が米粒品質に及ぼす影響.山形農試研報36:51-66.
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