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ジベレリン・プロヒドロジャスモン利用による早生・中生ウンシュウミカンの浮皮軽減技術  2014-02-12

●和歌山県果樹試験場 栽培部 中谷 章  

 
背景と概要
 近年、気候の温暖化が進んでいるとされる中で(独)農研機構果樹研究所の杉浦ら(2007)は果樹農業に対する温暖化の影響について全国規模でのアンケート調査を行い、その中でウンシュウミカンの浮皮の増加を挙げた都道府県が多かったと指摘している。
 浮皮対策としては園地の通風性の改善等の耕種的対策、薬剤散布による化学的対策などが実施されてきたが、いずれも一定の効果は認められるものの安定せず、安定的に浮皮を軽減できる技術が求められていた。そこで2010年2月にジベレリンとプロヒドロジャスモンを混用散布する新たな植物生長調節剤が農薬登録されたが、着色遅延等の問題から完熟栽培や貯蔵ウンシュウミカンでの使用が推奨されている。
 本研究ではジベレリンとプロヒドロジャスモンによる浮皮軽減を貯蔵せずに出荷する早生・中生ウンシュウミカンに適用するため、その処理条件について検討した。
症状
 浮皮とは、カンキツ類の果皮と果肉が離れる生理障害である(写真1)。浮皮を起こした果実は食味が淡白になるほか、輸送中に腐敗の原因となるなどの問題がある。
 
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写真1 正常果(左)と浮皮果(右)
 
 発生初期には果梗部周辺がわずかに分離する程度であるが、症状が進行すると果実の赤道部、果頂部へと分離が進む。初期の段階であれば大きな問題となることはないが、症状が進むと品質低下、腐敗果の多発が懸念される。
原因
 浮皮発生の要因は以前から研究されており、着色期(特に5分着色以上)における高温・多湿条件で多発する(河瀬、1984a)。さらに9月以降、着色期にかけて窒素が多い場合にも発生が助長されることが明らかになっている(河瀬、1984b)。また品種により浮皮の発生しやすさには差があり、石地や川田温州、丹生系温州などは浮皮しにくく、向山温州や林温州などは浮皮しやすいとされている(河瀬、2010)
対策
 浮皮は高温・多湿条件で多発するため、園地内が密植状態で乾燥しにくい場合は間伐などを実施して、園地の通風性を改善することが必要である。また収穫期まで窒素が残らないような肥培管理が重要である。
 これらの栽培技術面での対策以外に、植物生長調節剤による対策も実施されており、クレフノン(炭酸カルシウム水和剤)、フィガロン乳剤(エチクロゼート乳剤)、セルバイン(塩化カルシウム・硫酸カルシウム水溶剤)が農薬登録されている。また2010年2月にはジベレリン(水溶剤または液剤)とジャスモメート液剤(プロヒドロジャスモン液剤)の混用散布による浮皮軽減が農薬登録されている(表1)
 
表1 ウンシュウミカンに登録のある浮皮に効果がある農薬
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 このうちジベレリンとプロヒドロジャスモンの混用散布による浮皮軽減については、着色遅延が認められる場合があることから、樹上完熟栽培や貯蔵ウンシュウミカンなどの着色を待つことができる作型に限定されている。しかし、貯蔵せずに出荷される早生・中生ウンシュウミカンに処理したところ、早生ウンシュウミカンではジベレリン3.3ppm+プロヒドロジャスモン25ppmの8月中旬処理(11月下旬収穫)、中生ウンシュウミカンではジベレリン3.3ppm+プロヒドロジャスモン25ppmの9月上旬処理(12月上旬収穫)で、やや着色遅延が認められる場合があるものの、浮皮軽減が可能であることが明らかとなった。着色遅延の程度は1~2週間以内と見られ、収穫労力の分散にも活用できると考えられる。
具体的データ
 早生ウンシュウミカン‘宮川早生’では、ジベレリン3.3ppm+プロヒドロジャスモン25ppmの8月中旬処理により、収穫時(11月下旬)の浮皮度が低下し、浮皮軽減効果が確認できた(表2)。また果皮色a値はやや散布部でやや低い値を示したものの無散布部と有意な差はなかった(図1)
 
表2 ジベレリン・プロヒドロジャスモンの処理時期および処理濃度が‘宮川早生’の浮皮発生におよぼす影響(2011年)
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注)収穫日:2011年11月21日
z:触感により浮皮の程度を無(0)、軽(1)、中(2)、甚(3)に数値化した平均値
y:t検定により散布部と無散布部に**は1%レベル、*は5%レベルで有意差あり、n.s.は有意差なし、記載なしはサンプル数不足により統計処理不可

 
 
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図1 ジベレリン・プロヒドロジャスモンの処理時期および処理濃度が‘宮川早生’の果皮色a値におよぼす影響(2011年)
注)いずれの処理区もPDJは25ppm
  収穫日:2011年11月21日
※t検定によりいずれの処理区も散布部と無散布部に有意差なし
 エラーバーは標準偏差(n=3)

 
 中生ウンシュウミカン‘向山温州’では、ジベレリン3.3ppm+プロヒドロジャスモン25ppmの9月上旬処理により、収穫時(12月上旬)の浮皮度が低下し、浮皮軽減効果が確認できた(表3)。また果皮色a値は有意に低下した(図2)。着色遅延の程度は1~2週間程度と思われた。
 
表3 ジベレリン・プロヒドロジャスモンの処理時期および処理濃度が‘向山温州’の浮皮発生におよぼす影響(2011年)
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注)収穫日:2011年12月5日
 
 
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図2 ジベレリン・プロヒドロジャスモンの処理時期および処理濃度が‘向山温州’の果皮色a値におよぼす影響(2011年)
注)いずれの処理区もPDJは25ppm
  収穫日:2011年12月5日
z:Tukeyの多重検定により異なる文字間に5%レベルで有意差あり
  エラーバーは標準偏差(n=3)

 
 なお、本研究は農林水産省委託プロジェクト研究「気候変動に対応した循環型食料生産等の確立のための技術開発」により実施したものである。
参考資料
河瀬憲次.1984a.果樹試験場報告D.6:41-56.
河瀬憲次.1984b.京都大学学位論文.29-65.
河瀬憲次.2010.和歌山の果樹.61(9):30-32
杉浦俊彦ら.園芸学研究.6(2):257-263.

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