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高温登熟下で品質が低下しにくい品種「つや姫」  2012-01-11

●山形県農業総合研究センター 水田農業試験場 開発研究専門員 佐野智義  

 
背景
 山形県の主力品種「はえぬき」は、(財)日本穀物検定協会の食味ランキングで、1994年から17年連続“特A”と食味の評価は高いが、流通ロットが少なく、用途も業務用が主体であることから、知名度が不足している状況にある。一方、販売環境が有利な「コシヒカリ」は、県内での作付けも徐々に増加してきていたが、オリジナリティを有する県産米としてのブランド力がない。このようなことから、これら2品種を超える県独自品種の開発が求められていた。
 また、1994年、1999年と登熟期間が高温で経過し、それが原因で起こる白未熟粒の増加などで米の外観品質低下が問題となったことから、①高温に遭遇しても品質低下の少ない中生品種の育成、または、②高温での登熟を回避できる晩生品種の育成、の2つの視点で育種を進めてきた。
 このような状況下、全国的に高温下での登熟となり、品質低下が大問題となった2010年にデビューし、一等米比率が98.3%と検査数量2,000t以上の産地品種銘柄の中で全国一位となった「つや姫」について、その育成経過と諸特性を概説する。
育成経過
 「つや姫」は、中生~晩生の早・良質・良食味品種の育成を目標に、現在の山形県農業総合研究センター水田農業試験場において、「山形70号」を母に、「東北164号」を父として1998年に人工交配を行い、その後代から選抜・育成した(図1)。「山形70号」は“晩生の早”、短稈で耐倒伏性が強く、良食味だが、収量性が低いという欠点があった。これを改良するため、交配親に、玄米千粒重が重く収量性に優れ、良食味である「東北164号」を選定した。
 
 交配後は、集団育種法で育成を進め、生産力検定試験において「はえぬき」「コシヒカリ」より食味が優れたことから「山形97号」の地方系統番号を付し、2005年(F9世代)以降、対照品種を「コシヒカリ」として、奨励品種決定調査に供試して地域適応性を検討した。4年間に亘る試験の結果、有望と認められたことから、2009年に山形県の奨励品種に採用され、同年2月に「つや姫」と命名、2011年8月に種苗法による品種登録がなされた。
 品種名の“つや姫”は、「炊き上がりのつやと輝き、冷めてもおいしい商品イメージと、大切に育てた意味の‘姫’をかけて」命名された。
 

図1「つや姫」の系譜図
特性概要
 「つや姫」の特性概要を表1に示した。
 
表1「つや姫」の特性概要

(注1)穂いもち抵抗性は,2006・'07・'09年のみの判定による
(注2)玄米品質は,育成地における達観調査:1(上上)~9(下下)の9段階で評価
(注3)食味は,場内産はえぬきを基準とし,-3~(0:基準品種)~+3で評価

 
(1)栽培特性・収量性
 出穂期・成熟期ともに「コシヒカリ」並で、育成地では“晩生”に属する。稈長は“短稈”、草型は“中間型”で、耐倒伏性は“やや強”である。「つや姫」の収量性は「コシヒカリ」「はえぬき」より高く、玄米千粒重は「コシヒカリ」「はえぬき」並である。
(2)耐病性・耐冷性・穂発芽性
 いもち病真性抵抗性遺伝子型は“PiiPik”をもつと推定され、圃場抵抗性は葉いもち・穂いもちともに“強”である。縞葉枯病抵抗性は“罹病性”で、障害型耐冷性および穂発芽性は、ともに“中”である。
(3)高温登熟性
 2010年に、育成地において高温登熟性を検定した結果、供試した18品種の出穂後20日間の平均気温が、最も低い品種で29.6℃、最も高い品種で30.1℃という条件のもとで、白未熟粒歩合が3.3%から53.9%まで品種間における差が認められた。「つや姫」については、供試品種中最も低い3.3%であり、高温登熟性に優れる結果となった(図2)
 

図2 高温登熟性検定結果(高温区 18品種 2010年)
 
 また、2010年の県外26府県の奨励品種決定調査における「つや姫」と比較品種の「コシヒカリ」「キヌヒカリ」との玄米品質を比較した。登熟気温の算出には、各府県の研究機関の最寄りのアメダスデータを収集し、それぞれの品種の出穂後20日間の平均気温を計算した。「つや姫」は比較2品種に比べ、有意に品質が優り、登熟期間が高温で経過した2010年でも玄米品質の良さを示す結果となった(図3、図4)
 
 

図3 出穂後20日間の平均気温と玄米品質
(26府県の奨励品種決定調査 2010年)
図中の品種名・品質平均の後ろに記したアルファベットは、Tukey の
多重比較により異符号間に 5%水準で有意差があることを示す

 
 

図4「つや姫」と対照品種の玄米品質比較
(24府県*の奨励品種決定調査 2010年)
*:比較可能な「コシヒカリ」「キヌヒカリ」のデータがない2府県を除く

 
(4)品質・食味特性
 「つや姫」の玄米品質は、背・腹白粒、乳・心白粒の発生が少なく、「コシヒカリ」を上回り、「はえぬき」並に高品質である。
 「つや姫」の食味は、炊飯米に光沢(つや)があり、外観、味が優れ、総合評価は「コシヒカリ」を上回る(図5)。玄米粗タンパク質含有率は「コシヒカリ」並、精米アミロース含有率はやや低く、味度はやや高い。また、分光測色計による炊飯米の白色度は「コシヒカリ」より高い(白い)。炊飯米には、旨みアミノ酸であるグルタミン酸とアスパラギン酸が、「コシヒカリ」に比較して多く含まれる。
 

図5 つや姫とコシヒカリの食味特性比較
育成地生産力検定試験 2002~2010年
基準:育成地産「はえぬき」(目盛り:0.0)

普及の現状と見込み
 「つや姫」は2010年に2,500haで栽培され、本格的にデビューした。2011年は3,200haで作付けされ、県内外に16,000tが流通している。2012年は、県内で6,500haに拡大する予定のほか、宮城県(2011年:335ha)と大分県(2011年:100ha)でも一層の普及拡大が見込まれている。
参考資料
結城和博・佐藤久実・中場勝・櫻田博・佐野智義・本間猛俊・渡部幸一郎・水戸部昌樹・宮野斉・中場理恵子・横尾信彦・森谷真紀子・後藤元・齋藤信弥・齋藤久美 2010.水稲新品種「つや姫」(山形97号)の育成.山形県農業研究報告 2:19-40.
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