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着色の優良なりんご早生品種「ファーストレディ」  2011-01-17

●山形県農業総合研究センター 新野清  

 
背景と概要
 ここ20年間の平均気温は、それ以前の20年間の平均よりも0.7℃ほど高くなったと言われ、温暖化は大なり小なり全ての作物に影響を及ぼしている。特に果樹は一年生作物と異なり、永年作物であり、品種や施設栽培以外に作期を変えることができないことから、直接的そして長期にわたり果実品質に影響を及ぼすこととなる。
 
 リンゴに対する温暖化の影響は、着色不良・果実の軟化・粉質化・貯蔵性の低下、そして早生種では日焼け・みつ症の発生が問題となっている。 山形県では、早生の主要品種「つがる」が、平坦地で着色が遅れ、果肉硬度の低下が早く、日持ち性もやや劣るなどが問題となっており、それらを改善し、本県に適応した早生種の品種開発が求められていた。
 
 今回紹介する早生リンゴ「ファーストレディ」は、これらの欠点を改善した品種である。本品種は県単事業で開発された品種であるが、産地間協調による全国ブランド化を図るため、これまで他県で行われていた囲い込み(ある一定期間、他県に苗木等を販売しないこと)は行わず、平成22年度から県外販売を行うこととなった。ぜひ、この機会に多くの県で栽培していただき、出荷量の拡大や産地リレーによる出荷期の延長を図ることで、リンゴ産業の活性化につながればと考えている。
育成経過と名称
 「ファーストレディ」は平成6年に「さんさ」を種子親に、「つがる」を花粉親として交雑した中から選抜し、平成21年3月に品種登録された。名称は一般公募により、8月下旬に収穫される早生リンゴで、上品で鮮やかな紅色と果形の良さから貴婦人をイメージし、名付けられた。
 
「ファーストレディ」の果実
「ファーストレディ」の果実
品種特性の概要
 「ファーストレディ」の最も優れる特徴は、早生リンゴの中では果皮着色性に優れ、果肉が硬く、歯ざわり良く、しかも甘味・酸味とも多く、食味が優れることである。従って、今後も温暖化が進行していくことが予想される中で、生育期が前進化し、収穫期が高温期の8月下旬~9月上旬になる早生リンゴでは、この品種特性は既存品種と比較して、非常に優れている点と言える。
 
1)生態
 育成地(山形県寒河江市)における開花期は「さんさ」、「つがる」、「ふじ」と同時期か1日程度遅い。収穫期は8月下旬~9月上旬で、「さんさ」、「つがる」より3~7日程度早く、収穫盛期までの満開後日数は113~115日程度である。
 
2)果実品質
 果形は円形で、果実重は300g前後である。果皮色は濃赤色で縞が入り、平坦地でも容易に着色する。果肉は16ポンド前後で硬く、歯ざわりが良い。糖度は14%前後、酸度は0.3~0.4%程度、甘味・酸味とも多く、早生種の中では食味に優れる。こうあ部とがくあ部に多少サビが発生するが、心カビとつる割れはほとんど発生しない。
 
「ファーストレディ」果実5方向
「ファーストレディ」果実5方向
 
ファーストレディ つがる
果皮着色の比較
(左:「ファーストレディ」、右:「つがる」 H18.8.29)

(各画像をクリックすると大きく表示されます)
 
3)日持ち性
 日持ち性は20℃一定条件下で5日程度で、「つがる」と同程度である。
4)交雑和合性
 S遺伝子型の調査結果から「ファーストレディ」はS 3S 5と判明しており、「ふじ(S 1S 9)」、「つがる(S 3S 7)」、「王林(S 2S 7)」、「シナノスイート(S 1S 7)」等の主要品種と和合性があり、受粉樹となる。
 
5)その他
 年次により収穫前落果が発生するので、落果防止剤の散布は必要と考えられる。また、高温年次には他品種と同様、日焼け・みつ症の発生が見られることがある。
 病害に対する感受性は、斑点落葉病に対し「ふじ」並みに強く、黒星病には「ふじ」より弱いが、通常の早生種に対する防除体系で問題はない。 収穫が遅れると脂質の発生およびみつ入りが増加してくるので、適期収穫に努める。
 
表1 リンゴ「ファーストレディ」の果実品質(原木の収穫盛期)

(クリックすると大きく表示されます)
 
 
表2 リンゴ「ファーストレディ」の収穫後の日持ち性

(クリックすると大きく表示されます)
 
参考資料
1)新野ら(2009).リンゴ新品種‘ファーストレディ’.山形県農業研究報告.1:49-59
2)果樹種苗(2009).第115号(夏季号):41

 
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