高温条件下でも玄米品質が優れる極良食味水稲新品種「元気つくし」 | 2011-02-21 |
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●福岡県農業総合試験場 農産部 和田卓也 |
背景 | 近年、地球温暖化の進行により、国内においても水稲の登熟期間における気温が高まる傾向にある。その結果、福岡県および九州地域の主要品種である「ヒノヒカリ」は、高温登熟による品質低下が生じやすい(若松ら 2007)ことから、白未熟粒の多発によって、外観品質(検査等級)が低下し、深刻な問題となっている。   上記の問題を解決するため、福岡県農業総合試験場では、高温登熟性に優れる早生品種「元気つくし」(和田ら 2010、写真1)を開発した。以下、その育成経過と諸特性について述べる。  
写真1 元気つくしの立毛草姿(左:ヒノヒカリ、右:元気つくし) |
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育成経過 | 「元気つくし」は福岡県農業総合試験場において、早生の熟期で高温登熟性‘強’、高品質、極良食味品種の育成を目的に、早生、極良食味の「ちくし46号(後のつくしろまん)」を母、早生、多収、高品質の「つくし早生」を父として人工交配を行った組合せに由来する(図1)。  
図1 元気つくしの来歴   1998年7月に交配を行い、以後集団育種法により育成を進め、2004年より「ちくし64号」の系統名で生産力検定試験、特性検定試験、奨励品種決定調査試験に供試して、収量性、玄米品質、食味、高温登熟性、病害抵抗性および地域適応性について評価した。 以上の経過の中で、「ちくし64号」は熟期が‘早生’で、高温登熟条件下でも玄米の外観品質が低下しにくく、「つくしろまん」と同じく極良食味であることが認められたことから、新品種「元気つくし」と命名され、2011年3月に種苗法による品種登録がなされた。   品種名の‘元気’は、夏の暑さにも負けずに元気に生育すること、また今の時代に元気を与えるおいしいお米であることを表し、‘つくし’は「夢つくし」「つくしろまん」と同じ県産米として、多くの県民に親しまれるように、という意味が込められている。
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特性概要 | 「元気つくし」の特性概要を表1に示した。   表1 特性一覧
1)検査等級は1(1等上)~9(3等下)、10(規格外)の10段階評価 2)食味総合値は福岡県農業総合試験場で標準栽培した「コシヒカリ」(0.00)に対する評価   (1)栽培特性 出穂期と成熟期は、「ヒノヒカリ」より6~10日程度早く、福岡県の熟期区分で‘早生’に属する。草型は‘中間型’である。耐倒伏性は「ヒノヒカリ」と同程度の‘やや弱’である。育成地における収量は、「つくしろまん」、「ヒノヒカリ」と同程度である。   (2)高温登熟性 育成地における高温耐性評価施設(坪根ら 2008、写真2)で試験した「元気つくし」の白未熟粒歩合(各白未熟粒の発生割合の合計)は、3カ年ともに10%以下であった(図2)。登熟温度(出穂後20日間の平均気温)が27℃を越えると、多くの品種で玄米に白未熟粒が多発しやすくなる(図2)が、「元気つくし」はそのような高温条件下でも白未熟粒の発生は極めて少なかった。同施設で栽培した2007年産米の検査等級についてみると、「つくしろまん」と「ヒノヒカリ」が3等であったのに対し、「元気つくし」は1等であった。  
写真2 高温耐性評価施設  
図2 元気つくしの高温登熟性   (3)品質・食味特性 「元気つくし」の玄米千粒重は「ヒノヒカリ」と同程度である(表1)。「つくしろまん」、「ヒノヒカリ」と比較して、心白米や乳白米の発生が少なく、玄米品質が優れる。 「元気つくし」の食味は、炊飯米に光沢があり、粘りが強いのが特長であり、総合評価値が「ヒノヒカリ」より優れ、「つくしろまん」と同程度であった(表1)。また冷飯および1年間室温貯蔵した米(古米)の食味試験でも、同様の傾向であった(データ略)。食味に影響する理化学的特性をみると、「元気つくし」のアミロース含有率は「ヒノヒカリ」より低く、タンパク質含有率は同程度であった(表1)。   (4)病害抵抗性 「元気つくし」は「いもち病真性抵抗性遺伝子‘Pii’を持つと推定される。葉いもち圃場抵抗性は「ヒノヒカリ」よりやや劣る‘弱’、穂いもち圃場抵抗性は同程度の‘やや弱’である。
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普及の見込み | 「元気つくし」は2009年産から一般栽培が開始された。2010年産は1,090haが作付けされ、県産米の1等米比率の平均が17.5%と低迷する記録的な猛暑でも、89.8%の1等米比率を確保している(2010年12月31日現在)。2011年産は約3,000haに面積が拡大することが予定されており、県産米の品質向上のための主力品種として期待されている。
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参考資料 | 和田卓也・坪根正雄・井上 敬・尾形武文・浜地勇次・松江勇次・大里久美・安長知子・川村富輝・石塚明子 (2010) 高温登熟性に優れる水稲新品種「元気つくし」の育成およびその特性 福岡農総試研報 29:1-9. 坪根正雄・尾形武文・和田卓也 (2008) 登熟期間中の温水処理による高温登熟性に優れる水稲品種の選抜方法. 日作九支報 74:21-23. 若松謙一・佐々木修・上薗一郎・田中明男 (2007) 暖地水稲の登熟期間の高温が玄米品質に及ぼす影響. 日作紀 76:71-78.
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