ウンシュウミカン(貯蔵)の浮皮 | 2010-11-25 |
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●(独)農研機構 果樹研究所 生駒吉識 |
背景と概要(要約) | 果樹研究所の杉浦ら(2004)は、温暖化が現時点で果樹生産にどのような影響を及ぼしているのかについて、全国規模のアンケート調査を実施し、カンキツに対する温暖化の影響の1つとして、浮皮の発生を指摘した。 また、農林水産省生産局は、平成19年6月21日に「品目別地球温暖化レポート」を策定し、ウンシュウミカンに対する温暖化の影響と今後の対応方針について公表し、今後の対応方針として、特に、浮皮等の果実生理障害について、「発生機構の解明ならびに既存の栽培管理手法と被害発生の関係解明」が重要であることを示した。   このような状況を踏まえ、浮皮の発生要因やその対策技術、特に、平成22年2月に農薬登録され、本年から浮皮軽減のために使用可能となった、ジベレリンとプロヒドロジャスモンを混合して散布する、新しい浮皮軽減技術について紹介する。
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症状 | 浮皮とは、果皮と果肉が分離する現象が激しくなった状態を示し(右:写真1 浮皮果(左)と正常果(右)、「貯蔵・輸送中に腐敗しやすい」「味が淡泊になる」等の問題がある。
発生初期には、果梗部(枝が付いていた部分)で果皮と果肉が分離する程度であるが、症状の進行に伴い、果実全面で果皮と果肉が分離する。このため、浮皮の発生程度は、果皮と果肉の分離が果梗部周辺で観察される場合(発生程度:軽)、果梗部から赤道部にかけて観察される場合(発生程度:中)、果梗部から果頂部(果梗部とは反対側の部分)にわたる果実の全面で観察される場合(発生程度:甚)のように、段階的に評価される場合が多い。 写真1の浮皮果の浮皮発生程度は甚である。発生程度が軽の場合は、品質面での問題は目立たないが、中から甚の場合には、腐敗の多発や食味の低下が懸念される。 |
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原因 | 浮皮の発生は、次のような2つの段階を経て進行するとされている(倉岡、1962)。   第1段階目には、果実の成熟に伴って、果皮のアルベド(果皮の白色の組織の部分)の崩壊が起こり、果皮と果肉の間に隙間が生じる。その後、第2段階目において、果皮が雨露由来の水分を吸収して膨潤し、果皮と果肉の間の空隙が増大して、浮皮が著しくなると考えられている。   このような浮皮の進行過程から、水分と浮皮の発現に密接な関係があることが推定できるが、実際、温度条件を同一にして湿度条件を変えた場合には、湿度が高いほど浮皮の発生が助長されることが明らかにされている(河瀬、1984a)。また、湿度条件を一定にした場合には、温度が高いほど浮皮発生は甚だしくなることが明らかにされている(河瀬、1984a)。このような結果から、浮皮は、成熟期が高温・多湿になると発生しやすいと考えられている。   また、窒素施用量が多い場合には、浮皮の発生が助長されることも知られており(鳥潟ら、1955;河瀬、1984b)、成熟期まで樹体や果実内の窒素成分が高濃度になることも、発生を助長する原因の一つと考えられている。
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対策 | 浮皮は、窒素施用量が多いと、発生が助長される傾向にあるため、果実成熟時の窒素の肥効を小さくする肥培管理が重要となる。   例えば、夏肥の施用量を少なくする、夏肥の施用後に降雨がない場合には夏肥の遅効きを避けるために灌水を行う、などの工夫が有効と考えられる。また、摘果法の改善により、浮皮を軽減できることも明らかにされており、後期重点摘果(井上ら、2005)、樹冠表層摘果(北園、2007)、樹冠上部摘果(高木ら、2009)などは、浮皮を軽減することが可能な摘果法とされている。   浮皮軽減対策としては、上記のような栽培管理技術に取り組むことが基本であるが、これらの栽培管理技術のほかに、浮皮軽減に利用可能な農薬が表1のとおり登録されている。   表1 ウンシュウミカンにおいて登録されている浮皮軽減に有効な農薬
炭酸カルシウム水和剤や塩化カルシウム・硫酸カルシウム水溶剤は、含有されるカルシウムが果皮の細胞の接着を強固にする作用や、果実からの水分の蒸散を促進する作用(樹上予措作用)などを発揮し、浮皮を軽減できると考えられている(河瀬、1984c;牧田1998)。 エチクロゼート乳剤は、植物ホルモンのオーキシン活性を有する農薬で、同種の活性を有する農薬の中で、唯一浮皮軽減作用を示す。ジベレリンとプロヒドロジャスモン液剤は、それぞれが、植物ホルモン活性を有しており、平成22年2月に、これらの薬剤が農薬登録され、使用時に混合して散布する、新しい浮皮軽減技術が開発された。   特に、ジベレリンとプロヒドロジャスモン液剤の混合散布は、浮皮軽減効果が安定的で高いため、浮皮の発生が著しい場合の対策技術として有望と考えられる(表2)。   表2 ジベレリンとプロヒドロジャスモンの混用散布の効果
しかし、これらの混合散布を行うと着色が遅延するため、現時点では、通常の出荷時期よりも樹上に長く着生させるミカン(樹上完熟)や貯蔵ミカンのように、着色するのをゆっくり待つことができる作型に使用が限定されており、慣行の収穫期に収穫して、貯蔵せずに出荷する作型には使用できない。   散布濃度は、ジベレリンについては3.3~5ppm、プロヒドロジャスモンについては25~50ppmで農薬登録されているが、着色遅延等の副作用をできる限り回避するために、登録されている濃度範囲の最低濃度である「ジベレリン3.3ppmとプロヒドロジャスモン25ppm」が推奨されている。また、散布時期は9月上旬が推奨されている(高橋、2010;澤野、2010)。
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具体的データ | |
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参考資料 | 井上久雄ら.2005.平成16年度近畿中国四国農業研究成果情報.359-360. 河瀬憲次.1984a.果樹試験場報告D.6:41-56. 河瀬憲次.1984b.京都大学学位論文.29-65. 河瀬憲次.1984c.果樹試験場報告D.6:57-76. 北園邦弥.2007.農業研究成果情報(熊本県農林水産部発行).No.328. 倉岡唯行.1962.愛媛大紀要第6部(農学).8:106-154. 澤野郁夫.2010.園芸学研究.9(別1):54. 杉浦俊彦ら.2004.平成16年度果樹研究成果情報.25-26. 高木信雄ら.2009.愛媛県農林水産研究所果樹研究センター研究報告.1:1-8. 高橋哲也.2010.柑橘.62(8):12-16. 鳥潟博高ら.1955.園芸学研究集録.7:42-48. 牧田好高.1998.果実日本.53(3):24-27.
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