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温暖化が農業に与える影響
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地球温暖化の科学的な根拠 -観測と研究の歴史-【16】  2014-12-25

●NPO法人シティ・ウォッチ・スクエア理事長 林 陽生   

 
エピローグ
 シリーズを通して、地球温暖化曲線の出自ともいえる点に焦点を当てて解説してきた。地球の平均気温を求める作業には、これからも多くの努力が注がれるだろう。どこまで地球環境が変わるのか? その実態を表すグラフについて世代を超えて注目する必要があるだろう。
 
 現在、地球温暖化の要因は温室効果ガスの人為的な排出と認識されている。この証拠をつかむためには、拡張を続ける都市域が地表付近の気温に及ぼす影響を引き続きウォッチングする必要がある。IPCCが設立された後の1990年代になると、人口密集地とそれ以外の地域を区分する合理的な方法として、衛星データを利用する手法が開発された。さらに、都市の気温推定にも衛星データを利用する研究が行われた(例えば、Johnson et al., 1993, 1994 Hurrell and Trenberth, 1996 Gallo et at., 1999)。
 
 そのなかでGallo and Owen(1999)は、都市と郊外の気象観測所における最低気温、最高気温、平均気温の差を解析し、月および季節ごとの正規化植生指数(NDVI)と表面放射温度(Tsfc)を比較した。その結果、都市と郊外の気温差と、正規化植生指数の差の間に線形関係が認められることを示した(図)
 

 
 この図は、植生が繁茂する北半球の9月について、都市と郊外の気温差と、同じくNDVIの差の関係を図に示す。図中のイニシャルは都市の名前を表す。夏期に郊外では植生が繁茂するが都市では植生が乏しいため、植生が多いほどNDVIの差は大きくなる。同時に、植生のある郊外では植物の蒸散作用などで気温が低下するため、都市域の気温との差が拡大する。この結果、負の相関関係が示されることになる。
 
 ギャロ・オーエンの研究で明らかになった関係は、その後、土地利用変化が地球温暖化に及ぼす影響の指標として利用されるようになる。同時に彼らは、衛星データから判定した都市域の気温上昇量と人口から推定した気温上昇量の誤差は同程度であり、将来的には前者の利用価値が高まると予測した点で先駆的な研究となった。
 
 このようにして、客観的かつ独立した新手法により地球温暖化の真の要因が徐々に同定されてゆく過程は、科学技術の発展を知る上で非常に興味深いことである。
 
参考文献
・Johnson, G.L., Davis, J.M., Karl, T.R., McNab, A.L. and Tarpley, J.D., The use of polar-orbiting satellite sounding data to estimate rural maximum and minimum temperature. J. Appl. Meterol., 32, 857-870, 1993.
・Hurrell, J.W. and Trenberth, K.E.,Satellite versus surface estimates of air temperature since 1979. J. Climate, 9, 2222- 2232, 1996.
・Gallo, K.P., Owen, T.W., Easteling, D.R. and Jamason, P.F., Temperature trends of the U.S. historical climatology network based on satellite-designated land use/land cover. J. Climate, 12, 1344-1348, 1999.
・Gallo, K.P., T.W. Owen: Satellite-Based Adjustments for the Urban Heat Island Temperature Bias. J. Appl. Meteorol., 38, 806-813, 1999.

 

 
 
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