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温暖化が農業に与える影響
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地球温暖化の科学的な根拠 -観測と研究の歴史-【15】  2014-12-10

●NPO法人シティ・ウォッチ・スクエア理事長 林 陽生   

 
(14)IPCCによるコンセンサスの形成
 幾多の学術上の論争を経て、その後地球温暖化の研究に大きな役割を果たすIPCCが1988年に設立された。IPCCは、レビューに耐える研究成果を集約し、地球温暖化に関する国際的なコンセンサスを形成する役割がある。1990年に公表された第1次評価報告書では、2100年までに地球の平均気温が3℃上昇することが示された。続いて、1995年に第2次評価報告書が刊行され、地球温暖化がすでに起きている証拠があると指摘した。その後2001に第3次評価報告書、2007年に第4次評価報告書が逐次刊行されたが、そのたびに最近100年間の気温上昇率は高まっていることが示され、世界のほとんどの生態系が温暖化の影響を受けている実態を明らかにした。
 
 これまでに述べてきた都市化による気温上昇がどの程度影響するかについて、IPCCの第4次評価報告書では、最近100年間に0.74℃/100年の率で全球平均気温が上昇したが、陸上のヒートアイランドによる気温上昇率は1オーダー小さいこと、同時に海上には都市(人工的熱源)は存在しないことから、結局ヒートアイランドが地球温暖化に及ぼす規模は無視できるとされた。第2回に解説した地球温暖化の曲線群は、第4次評価報告書に掲載されたものである。
 
 続く第5次評価報告書(IPCC、2013)では、1880~2012年で0.85℃上昇したことを示した。このほか、海洋の状況(水温上昇)を詳細に示した点に新規性がある。海洋の上部(0~700m)でほぼ確実に水温が上昇していること、3000m以深の深層でも上昇している可能性が高いことを指摘した。海洋の温暖化は、気候システム全体に蓄えられたエネルギーの大部分の受け皿である実態が明らかになった。
 
 気温変動の時系列の特徴についても新しい見方が生まれた。21世紀に入り地球温暖化の上昇が鈍っているように見えるハイエイタス(hiatus)と呼ばれる現象である(図参照)。この用語は「活動の停滞」といった意味を持っている。これまでに示した温暖化曲線に、近年の変動が続けて描かれている(黒色:英国気象庁による解析データ、オレンジ色:アメリカ海洋大気庁国立気候データセンター、藤色:アメリカ航空宇宙局ゴダート雨竜科学研究所の解析データ)。上段は1961~1990年の平均からの偏差、下段は10年ごとの変化の平均と標準偏差(英国気象庁データのみ)が描かれている。3種類の変動はそれぞれもとになっているデータベースが異なるが、これまで示してきた研究結果を反映したものである。
 

 
 ハイエイタス、すなわち変動しながらも2000年に入って上昇が止まったように見える現象は、次の要因が考えられるが、どれも一説にすぎない。まず、近年に太陽黒点数が減少していることによる太陽活動の不活発化、あるいは火山噴火などによるエアロゾルが成層圏に到達して長期間滞留するため、地球に到達するエネルギーが少ないというものだ。次に、温室効果ガスの増加率そのものが鈍化していることも指摘されている。このほか、気候システムの自然の揺らぎ、ラ・ニーニャの状況が継続する傾向が現れていることから東部太平洋の海面水温が低い影響などが考えられているが、現時点では理由が明らかになってはいない。このような状況は、研究史のなかで1960~1980年ころにディミングが始まった時代、つまり寒冷化が取りざたされた時代が再来する兆候かも知れない。
 
参考文献
・IPCC: Working Group I Contribution to the IPCC fifth Assessment Report Climate Change 2013/The Physical Science Basis/Summary for Policymakers, 2013.

 
 
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