地球温暖化の割合はそれほど大きくない、としたウッドの論文が1988年に発表されると同時に、ジョーンズら(Wigley and Jones, 1988)の再反論が発表された。第一著者のウィグレイは、反論の元となったジョーンズらの論文の第二著者である。主従を入れ替えて、反論に応じたことになる。   一般に、学術雑誌に論文を投稿すると、雑誌の編集者は議論が正しいか否かを判断するため、複数の専門家に投稿論文の査読を依頼する。著者の見解に批判的な査読結果にどのように対応するかが、その論文が世に出る過程で欠かせない作業である。査読者に対する回答を重ねることで論文の客観性が確保され、掲載されればその学術雑誌の評価が高まる。ジョーンズとウッドの論争も、この過程で世に出た。自分たちの結論を主張するために、この一連の論争は重要なものであったと考えられる。2つの論文は、満を持したように連続したページに続けて掲載された。   ウィグレイ・ジョーンズは、都市の影響や気候特性とは無関係に観測データをスクリーニングしてあることを述べた後、都市の気温上昇は人口と関係するものの定量的な関係は明瞭でないとした。また、Karlら(1988)を引用し、10万以下の人口の都市では郊外の気温との差があっても、そのうちのわずか4%しか人口増加と関係しないと指摘した。さらに、アメリカ大陸について、ヒートアイランド研究の立場から、都市化の影響を差し引いたカールらの曲線と良く一致するとした(図:カールとジョーンズらの曲線の比較。上段はカールの曲線を1℃ずらして示してある。ジョーンズらの曲線の絶対値は、1901~1984年の平均気温からの偏差を示したものである。)。   (クリックで拡大します)   こうした議論により、自分たちが求めた曲線では都市の気温上昇の影響は除去されており、少なくとも比較的精度の良いデータが整った合衆国では真の気温トレンドを代表していることが証明される、と主張した。議論の締めくくりが出色である。かれらは、これ以上の議論は無意味であり、この報告をもってさらなる批判が行われることをさし止めすると通告した。これほど強い調子の結論付けは、あまり見られない。   こうして、IPCCのなかで重要なジョーンズらの温暖化曲線ができあがった。本シリーズの第2回目の曲線群のうちの赤色のものがそれである。   参考文献 ・Wigley, T.M.L. and P.D. Jones: Do large-area-average temperature series have an urban warming bias? (Response to the manuscript by F.B. Wood) Climatic Change 12, 313-319, 1988. ・Karl, T.R., H.F. Diaz and G. Kukla: Urbanization: Its detection and effect in the United State climate record. J. Climate, American Mete. Soc., 1099-1123, 1988.