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温暖化が農業に与える影響
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地球温暖化の科学的な根拠 -観測と研究の歴史-【13】  2014-11-13

●NPO法人シティ・ウォッチ・スクエア理事長 林 陽生   

 
(12)都市温度上昇の実態からみた疑問(2)
 20世紀の最後の10年間の時代に、陸上観測に関わる誤差の要因として次のことが指摘されていた。観測地点の移動、測定機器の変化、観測時刻の変更(特に、午後から午前に移したケースが多い)、都市化による周辺環境の変化(近年のアメリカでは、都市の観測所が周辺の空港に移転するケースが多い)などである。また、都市域を検出する客観的かつ合理的方法が見当たらないこと、相対的な比較だけでは適格なデータの質の評価や適切な修正方法が見当たらないことなどが、代表性の高い地球平均気温を求める際に障害となっていた。
 
 前回に述べたとおり、ジョーンズらの研究に対してウッド(Wood, 1988)の反論が学術雑誌に掲載されたが、これが引き金となり、新たに幾つかの論戦が繰り広げられることになった。
 
 ジョーンズは、1980年代前半から彼の協力者とともに地球規模の温暖化に関する論文を精力的に発表していた。これに対してウッドは、ジョーンズらが求めた曲線をその当時において最も権威のあるものとしながらも、都市化による高温のバイアスが含まれている可能性が高い陸上の気温を使い、海洋の温度を補正した点を指摘した。従って、海洋上の気温も高めになっていると考えた。すなわち、ジョーンズらの曲線ほど気温上昇はしていない、という点が大きな論点であった。
 
 少し細かくみてみよう。都市化の高温の影響を含んでいる可能性があるとした理由は、次の通りである。(a)これまでの研究では、都市化による気温上昇の割合は0.1℃/10年で、一般に小さい町でも都市化の影響が認められ人口が増えると高くなる(筆者コメント:地球温暖化の割合は、最近50年間でみると0.026℃/10年)。(b)1900~1986年の間に世界の人口は3倍に増加した。1950年~1986年では2倍以上に増え、都市に限っても50%人口が増加した。(c)これらの状況から考えると、ジョーンズらが都市として取り上げた地点数は、北半球の38(アメリカ22、カナダ2、中央アメリカ7、ヨーロッパ7)、南半球の3(ブラジル1、ニューギニア1、ニュージーランド1)と限られている。(d)さまざまな都市を個別に取り扱うことになろうが、地理的・気候的条件が異なるために、同質のものとして統計をとることは難しい。
 
 学術雑誌、Climatic Changeに投稿されたウッドの主張を後押しする代表的な研究として、Kukla et al. (1986)の研究がある。これは上述の理由のなかで、主に(a)を支持する研究である。非常に小さい町(人口1000~1万人)でも気温場に影響が及び、また地点によっては気温上昇でなく低下(寒冷化)する傾向も現れているとし、最近の気温上昇の割合は0.12℃/10年程度になると結論づけた。この数値はウッドの主張の根拠である。これらの研究は、当時注目を集めはじめていた都市温度の上昇(図:ヒートアイランドの概念を示しており、航空写真に地表付近の気温の等値線が引かれている)そのものを詳細に取り扱ったものだった。
 
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参考文献
・Wood, F.B.: Comment: on the need for validation of the Jones et al. temperature trends with respect to urban warming. Climatic Change, 12, 297-312, 1988.
・Kukla, G., J.Gavin and T.R.Karl, Urban warming. J. Climate and Applied Meteorol., 25, 1265-1270, 1986.


 
 
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