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温暖化が農業に与える影響
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地球温暖化の科学的な根拠 -観測と研究の歴史-【10】  2014-09-29

●NPO法人シティ・ウォッチ・スクエア理事長 林 陽生   

 
(9)陸と海を統合した曲線(その1)
 物理モデルが一定の役割を担うようになると、研究テーマの分担化が進み、モデル自体の開発と並行して、温暖化曲線については従来よりも精緻なデータベースを構築することに意義が与えられるようになったと考えられる。ハンセンの時代以降は、地球温暖化とは関係のないノイズ、すなわち観測時刻の違い、観測所の移動、測器の変更、さらに都市化に代表される土地利用変化などに起因する誤差の抽出と、空間代表性および時間代表性を拡張するための補正の議論が精力的におこなわれた。
 
 この後になると、衛星画像の利用や熱収束(エネルギーの流れ)など、新たな観測技術を使い地表付近の気温変動を論じる研究がおこなわれるようになった。こうして、気温変化と植生指数や地被の変化に伴う水蒸気量の変化などが関連づけられ、地球規模の環境変化が生態系に及ぼす影響を研究テーマとして取り上げる時代へと移行していく。
 
 さて、すでに述べたように、海洋上の気温と地上気温を初めて同時に取り扱ったのは、ハンセンの論文と同年に発表されたPaltridge and Woodruff (1981)の研究である。海洋データの不均質性の議論が十分ではなかったものの、学会の評価は好意的だった。というのも、彼らは海洋温度の変化に注目し、全球平均気温の解析に取り組んだ先駆者だったからである。この後、陸上と海上の気温データベースを整え、総合的な解析を施したのがJones et al.(1986)ほかの一連の研究である。ジョーンズの所属機関がイギリス(イーストアングリア大学)であることを考えると、なるほど海洋王国から生まれるべくして世に出た研究といえる。
 
 時は、折しも地球温暖化に対する国際的な認識が高まりIPCC(1988年設立)がスタートする直前の、研究史のうえで重要な時期である。まず、従来よりも長期間かつ広域を対象とした良質のデータベースを作る必要がある。そこでジョーンズらは次のように考えた。陸上観測地点のデータはこれまで長い間注意深く調べられ、ノイズが小さくなっている。また、SST(海面水温)とMAT(海洋上気温)の間に高い相関があることも認められている。では、もし大陸の沿岸部にある陸上気温と近くのMATの差がわかれば、その差を修正すべきバイアス(パルトリッジとウッドラフが論じた諸々の要因を含むノイズ)として取り扱うことで、広大な海洋に分散するSSTの観測値を介してMATを推定できるはずである。
 
 ジョーンズらはこの考えを可能にするために、海洋と陸地の面積が適度な割合で混在する領域を地球上に15カ所設定した(の四角で囲んだ領域で、領域は地球上でできるだけ偏りがない地域に設定する必要がある)。こうして、領域ごとに沿岸部の地上気温とMATの年平均気温を求めて両者を比較した。すると、時系列に描かれた両者の差のグラフには、気候条件では説明の出来ない、むしろ年代に依存した偏差が現れた。この偏差こそMATの補正値として重要である、と彼らは考えた。そこで、この補正値を使用し、それまでにない地球の広域をカバーするデータベースを使い、全球平均気温の曲線を描いた。
 

(クリックで拡大します)
 
 この研究が発表されると、国際的に権威のある学術雑誌上でさまざまな論争がまき起こった。今になって、論争の展開を一続きの議論として整理すると、当然起こるべき疑問への対処、研究者の立場の違いや論理の個性などを垣間見ることができ興味深い。これらについては次回以降に解説する。
 
参考資料
・Paltridge , G. and S. Woodruff: Changes in global surface temperature from 1880 to 1977 derived from historical records of sea surface temperature. Monthly Weather Review, 2427-2434, 1981
・Jones, P.D., T.M. Wigley and P.B. Wright: Global temperature variation between 1861 and 1984. Nature, 322, 430-434, 1986


 
 
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