全球平均気温の解析で繰り返された議論のなかで重要なもののひとつは、都市化によるヒートアイランドの影響を地球規模の平均気温からどのように除去するかであった。この議論には、大別すると二通りの考え方がある。ひとつは、できるだけ多くの観測地点のデータを収集してそれらに適切な補正を加えるものである。他のひとつは、あらかじめ代表性の優れた観測地点を選び平均値の計算に用いるものである。研究の初期にはそれぞれの立場で、その後は包括的な視点で数多くの研究が行われた。   地球の広大な表面上の平均気温を確度良く求めるには、できるだけ多数地点の、それも長期間の観測データが必要であり、それらは空間的な代表性の点で優れた観測地点のデータであるべきだ。ところがこの条件を完全に満たすことは不可能であるし、かといって、どの水準で満足すれば目的の(地球規模の平均気温を求めるという)議論ができるのか、ガイドラインがあるわけでもない。従って、都市化した観測地点のデータの取り扱いなど、地球温暖化とは異なる要因による気温変化をノイズとして除外する方法(考え方)につき、議論が展開されることとなった。   学会で展開された激しくも興味ある議論について説明する前に、当時のアメリカで、どの程度の広がりをもった地域を対象にデータマイニングが行われていたか、Karlほか(1988)の研究をみてみよう。論文タイトルは「アメリカ合衆国の気候記録にみる都市化の検出と影響」で、都市と都市の影響が少ない地域の気温差が分かれば都市化が気温に及ぼす影響を推定することが可能になり、ひいては広域の平均気温を評価するために有効というものである。   アメリカ合衆国の広範囲に分布する1219点の地上観測ネットワークデータを使い、1901~1984年について解析した。解析期間後半に相当する1941~1984年の観測地点の分布を図に示す。この研究では、人口2千人以下の地点(黒丸)とその近くに位置する2千人以上の地点(白丸ほか:3つのカテゴリを設定)をペアにし、両地点の観測データの差を求めて都市化の影響を解析した。図で、ペアとなる2地点が実線でつなげてある。この図を見ると、観測地点が偏在しており、中西部では非常に少数であることがわかる。特に観測期間の前半ではペア地点間の距離は数十kmに及び、日本では考えられないほど離れた地点を比較したことになる。当時、温暖化研究で最先端のアメリカ合衆国の場合でさえ、広域を対象に統計処理を行う場合の仮定の複雑さ・難しさが、ここにうかがわれる。   (クリックで拡大します)   とにかく解析結果は次のように整理された。人口1万人以下の小さな町でさえ周辺との気温差が現れた。1万人規模の場合には、近くの人口2000人以下の地点と比較し、年平均気温で平均0.1℃高まった。季節による差異があり、冬季を除くすべての季節で日最高気温を低め、全季節で気温較差が縮小した。また、20世紀を通した都市化で約0.06℃の高温バイアスが現れたと結論づけた。   同時に、解析に用いた全観測地点数のうち、1980年時点で人口少ない町(1万人以下)の観測点数の割合が70%、また中規模以下の都市(2.5万人以下)では85%に相当するため、都市化がアメリカ合衆国の平均気温に及ぼした影響は大きくないとした。この点は、その後にIPCCが都市化と地球温暖化の規模を比較する際に示唆的な結果となる。   参考資料 ・Karl, T.R., H.F. Diaz and G. Kukla, 1988: Urbanization: Its detection and effect in the United States climate record. J. Climate., 1, 1099-1123.