カレンダーと同様、Willett(1950)も初期のWWR(World Weather Records)を使い、1854年までさかのぼって全球気温変動の時系列を作成した。初期のWWRは129地点のデータで、時系列解析には十分な長さだったが、観測地点はヨーロッパなどに偏在していた。このため、最も信頼性のある一地点のデータを緯度経度10度のグリッドにごとに一つだけ選ぶなどの方法を用い、空間的な均一性を確保する工夫が施された。また、地点毎の月別データを5年ごとに平均し、1935~1939年の5年間の平均値を基準とした偏差を計算して経年変動を示した。   その後Mitchell(1963)は、ウィレットと同じデータベースに200地点以上の気温時系列データを追加して1959年までを更新し、解析した。できるだけ多数の連続したデータが全球で一様に分布していると都合が良い。緯度経度10度ごとに観測点を1カ選び、緯度10度の緯度帯ごとに表面積を求め、これに応じた重み付けを施して全球平均気温を求めた。この方法により観測点の空間代表性が確保されると同時に、観測点の移動で固有の地点だけでは解析に十分な期間がない問題をある程度解消することができた。   ミッチェルの曲線(実際には折れ線)は緯度帯の表面積で重み付けをしたので、同じデータベースを使ったウィレットの曲線より変動の幅が小さくなった。これは、好ましい方向への修正である。論文には、両者の差を示す図がある。ここでもその図を示そう。上段は年平均気温、下段は冬季の平均気温(いずれも5年平均値)で1880~1884年の平均からの偏差(単位:華氏°F)で示してある。実線は重み付けした結果、破線はウォレットの方法(重み付けなし)である。1800年代以降、年代経過とともに両者の差は拡大している。この図から、面積で重み付けする効果が大きいこと、また徐々に高緯度の気温が上昇する割合が増している実態を読み取ることが出来る(同じ気温上昇が起こっても、面積が小さな高緯度地帯では地球全体への寄与率が小さい)。       ところで、高緯度の気温が低緯度と比較して上昇する割合が年代とともに大きくなる現象は、地球温暖化の際立った特徴である。これは、積雪に覆われた高緯度地帯では、気温上昇とともに雪(白く反射率大)が溶けて地面(黒く反射率小)が現れ(この現象をアルベドの低下という)、地表面が太陽放射エネルギーを多く受け取る結果、大気が下層から暖められて気温上昇に拍車がかかるためである。この現象を、アイスアルベド・フィードバックという。   ここで紹介したMitchell(1963)の論文は、ユネスコと世界気象機関が共催した乾燥地域の環境問題に関する「ローマ・シンポジウム」の講演集に収録されている。シンポジウムでは、新しい知見の集約だけでなく、乾燥地域に暮らす人々の生活改善が目的に掲げられていた。従って、彼が示した曲線(折れ線)には、全球平均のほかに熱帯地方のみを切り出した結果も示されている。   ミッチェルの論文の要約にはこう記載されている。このシンポジウムの興味は恐らく過去1世紀の温暖化により熱帯がどのていど昇温に寄与しているかを知ることだ。低緯度地帯、すなわち30度N~30度Sの地帯の平均気温は、1880年から1940年にかけて約1°F上昇した。また、1940年ころの下降は0.3°Fだった。ここで、華氏の目盛りの5/9が摂氏の目盛りに対応する。   さて、図に示したように1940年以降に気温下降の兆候が現れたが、これはその後の解析でも認められる現象である。地球温暖化が進行する過程でなぜこのような低下傾向が現れたのか、その原因については別の機会に述べることにする。   参考資料 ・Mitchell, J.M.: On the world-wide pattern of secular temperature change. In: Changes of Climate. Proceedings of the Rome Symposium Organized by UNESCO and the World Meteorological Organization、Arid Zone Research Series No.20, UNESCO, Paris, 161-181. 1963 ・Willett, H.C.: Temperature trends of the past century. In: Centenary Proceedings of the Royal Meteorological Society. R. Meteorol. Soc. London、 195-206. 1950